学都「仙台・宮城」サイエンスコミュニティでは、「科学で地域が見える」をコンセプトに、それぞれの地域の様々な特色を科学を切り口に可視化する「ミニサイエンスデイ」を、様々な地域団体と連携しながら、これから全県において開催します。
その第二弾として、石巻エリアを対象とした学都「仙台・宮城」サイエンスデイin石巻を11月30日、石巻市立中里小学校を主会場に開催しました。本イベントでは、石巻に縁のある大学や研究所、企業や学校などにご出展いただき、歴史や地球科学、農業や水産業、日本酒や伝統工芸など、様々な視点から石巻を深く知ることができる、合計6つのプログラムを実施しました。
今回は、仙台市以外の地域で初の単独開催となりましたが、石巻市や仙台市などから、親子連れら約130人にご来場いただき、無事終了することができました。ご出展・ご来場いただきました皆さまや、会場をご提供いただいた石巻市立中里小学校の関係者の皆さまをはじめ、関係各位のご理解・ご協力に、この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
石巻といえば、月ノ浦(現・石巻市)から遠くエスパーニャ(現・スペイン)やローマまで渡った、支倉常長が有名です。しかし実は、支倉常長のイメージは近代史の中で一つではありませんでした。近代史がご専門の加藤さんは、日本近代史の中で支倉常長の歴史イメージが、それぞれの時代でどのようにつくられ、そのキャラクター像がどのように変化したかを、様々なトピックスをあげながら、わかりやすく解説。このような変化の過程自体が近現代の歴史そのものであることや、石巻の郷土史が日本の近代史の大きな流れの中に位置付けられることを説明しました。そして歴史研究の手法はできるだけ複数の一次史料を用いて検証しながら、歴史的事実を確定していくプロセスであると説明し、最後に加藤さんは「歴史イメージは時代によって変化するからこそ史実そのものを勉強する必要があります。それが学校で歴史を学ぶ意味です」と語りました。
石巻といえば、水産業が全国的に有名ですが、実は農業も昔から盛んな地域です。11月30日は偶然にも「良い味噌(1130)」の日。日本を代表する発酵食品である味噌は、大地からの恵みである大豆と米、そして塩を混ぜてつくります(米味噌の場合)。原料はこの3つだけですが、単に混ぜただけでは、もちろん味噌にはなりません。発酵に必要なのが、「麹」や「酵母」といった微生物たちです。講師を務めた高橋信壮さんは、味噌の原料を見せた後、麹菌や酵母の働きを説明。参加者たちは原料一つひとつの味を確かめた後、蒸かした大豆を潰し、米麹と塩と酵母を均一に混ぜて味噌を仕込みました。仕込んだ味噌は味噌屋さんに管理してもらいながら、約1年の発酵熟成期間を経て完成します。この日は、味噌屋さんから提供された味噌でつくった味噌汁と高橋さんらが栽培した新米を試食しながら、参加者同士で交流を深めていました。
石巻といえば、全国的に有名な銘石「井内石」や雄勝「玄昌石」が産出される石のまちとしても有名です。雄勝玄昌石は室町時代から硯石として伊達政宗に献上され、明治以降は東京駅など西洋建築の屋根用スレートとして利用されています。井内石は大型の平板状石材として古くより板碑などに利用され、現在では国内のほぼ全域に出荷されています。これらの石が生まれる大地の生い立ちから最先端研究まで、地球科学の専門家・永広昌之さんがわかりやすく解説しました。また、ワークショップでは、化石レプリカづくりにも挑戦。最初は、型づくりから。2種類の樹脂を混ぜあわせて、化石を包んで型をつくり、次に、型に石膏を流し込んでレプリカをつくりました。さらに、スレートづくりも体験。雄勝玄昌石を専用の道具で割り、スレートへき開に沿って薄く剥がれるように割れる性質を体験し、参加者は作成した石版に思い思いの絵を描いていました。
日本酒は米と水だけでできていますが、米と水を混ぜただけでは日本酒になりません。そこで活躍するのが麹菌と酵母という微生物たちです。石巻にある酒蔵・平孝酒造で杜氏を務める小鹿泰弘さんは、日本酒が微生物による複雑な発酵のプロセスによって造られることを解説。日本酒に使われる麹は、米の主成分であるデンプンを糖分に分解し(糖化)、この糖を酵母が餌にしてアルコール発酵することで、お酒ができることを説明しました。「日本酒の場合、麹菌による糖化と酵母による発酵が平行して同時に行われるため、温度管理などの制御が難しい」と小鹿さんは話しました。次にもろみ中の酵母を光学顕微鏡で観察した後、酒蔵へ移動し、実際に酒造りの工程を見学。酒母やもろみが日々追うごとに発酵が進む様子も観察しました。最後に、大人は利酒、子どもたちは米麹でできた甘酒を試飲。子どもたちはおかわりするほど米麹の自然な甘みを気に入ったようでした。参加した子どもたちは「お酒が発酵する様子を間近に見られて楽しかった」と話していました。
石巻といえば、先述の通り、最高品質の天然スレート材である雄勝玄昌石の産地として有名です。このバスツアーでは、雄勝玄昌石でつくる硯「雄勝硯」(国指定伝統工芸品)の仮設工房を訪ねました。まずは菊地良寛教授(東北工業大学)が雄勝玄昌石の性質を「一方向にだけ割れやすく、他の方向には割れにくい」と説明し、その性質を活かした工芸品を紹介しました。次に雄勝硯生産販売協同組合事務局長の千葉隆志さんから、東日本大震災による津波被害の状況や、復興の取組みなどが話されました。その後、実際に参加者が専用の道具を使って、スレート割りを体験。子どもたちは石が簡単に割れたことに驚いた様子で「石に割れやすい方向と割れにくい方向があり、向きによってはいくら力を入れても割れず、面白かった」と話していました。最後に、雄勝玄昌石の特性を活かしたオリジナル作品作りに挑戦しました。植木鉢かフォトフレームを選び、玄昌石の端材を一つひとつ接着剤で固定し、絵の具で色を塗ったり、ニス代わりのオリーブオイルを塗って完成。作品が完成すると、参加者たちは満足した様子でした。
石巻といえば水産業で全国的に有名な地域です。カキの赤ちゃん(幼生)やノリのタネ(胞子)はどんな姿で何を食べて大きくなるのでしょうか。普段皆さんが食べているカキやノリは、漁業者さんが海に浮かべた筏(いかだ)で大事に育てたものです。これを養殖業といいます。宮城県では主に7種類の養殖が、盛んに行われています。その中で石巻を代表するカキやノリはどのように育てられているのか、宮城県水産技術総合センターが、実物やパネルを展示して紹介しました。体験ブースではカキの幼生を顕微鏡で観察したり、ノリの芽や葉体を触ってみることができました。また、同センターは毎日どのような検査を行っているかも解説されました。パネルではカキやノリの生活史や養殖方法が紹介され、調査や養殖の道具も展示されました。アワビの赤ちゃんの貝殻もプレゼントされました。ちなみに養殖アワビの殻は餌の影響で緑色です。アワビは巻き貝のため、放流したアワビは成長しても一部は緑色のままで、養殖かどうかを判別できるそうです。
参加者からは、「支倉常長の時代の日本や世界の動きなどの関係性を知ることができて、面白かったです」、「宮沢賢治さんが、石巻でも白菜のさいばいをしていたことや、石巻は漁業だけでなく、農業もさかんだったということを初めて知りました。みその歴史や白菜のことなどがとてもよくわかりました」、「石巻がせき道にあったことを初めて知りました」、「はっこうがみれて、おさけのつくりかたやにおいもわかってすごくたのしかったです」、「すずりになるおがつ石は恐竜時代からあったっことにおどろきました」、「震災後初めて雄勝に来ました。震災の爪痕は地域によって違うことを感じました」「雄勝には同じ石巻に住んでいても来る機会が少なかったので今日来ることができて良かったと思います」、「カキやノリ、アワビなどの養殖のこと。ほとんど知りませんでしたので、とても楽しく知ることができました」、「なかなか家族では参加できないようなイベントで子ども親も楽しめることができました。良い勉強・思い出ができてよかったです」といった声がありました。
本イベント実施にあたり、会場をご提供いただいた石巻市立中里小学校の関係者の皆さまには、運営サポートや地域との連携まで様々な面で多大なるご支援・ご協力を賜りました。塩澤耕平様には、当日の様子を撮影いただき、美しい写真をご提供いただきました。また、後援の石巻市教育委員会には、本イベント周知のため全石巻市立小・中学校に全児・童生徒分(約14,000部)のチラシ配布にご協力を賜りました(敬称略)。
さらに、共催の東北大学カタールサイエンスキャンパスの提供により、仙台と石巻の会場をつなぐ無料シャトルバスも2台運行され、会場から遠方の参加をサポートすることもできました。なおバスはバスツアー型のプログラムにも活用させていただきました。また、三陸河北新報社(石巻かほく)に取材いただき前々日と当日の紙面にて本イベントをとりあげていただきました。
(【リンク】科学の目で地域知る 石巻を会場に「サイエンスデイ」 身近な題材で体験)
本イベント実施にあたり、ご理解・ご協力を賜りました関係者の皆様、ご来場いただきました皆様に、この場をお借りして、心より御礼申し上げます。次回は来年度新たな地域でミニサイエンスデイ実施を検討しております。今後ともよろしくお願いいたします。
名称 | 学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ in 石巻 |
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日時 | 11月30日(日)10:00~16:00 |
会場 | 石巻市立中里小学校 |
対象 | 子どもから大人までどなたでも |
費用 | 無料 |
主催 | 特定非営利活動法人 natural science |
共催 | 宮城県 東北大学カタールサイエンスキャンパス |
後援 | 石巻市教育委員会 |