イベント概要
3年前の東日本大震災以来、「放射線」という言葉を、ニュース等でもよく耳にするようになりました。ところが、ニュース等からイメージできる「放射線」は一面的・断片的で、そもそもの測定値の数字の意味から、自分たちとどのような関係があるのかまで、実感を伴って理解するのは難しいのが現状です。そこでサイエンスコミュニティでは、多様な専門機関にご協力いただき、「放射線って、そもそも何だろう?」をテーマに、放射線の最先端研究と食の安全・安心の現場を訪れ、実際に自分で放射線を測る体験もしながら、いろいろな角度から放射線について、参加者が理解を深められる科学イベントを開催しました。
1.放射線って、そもそもなんだろう?~最先端研究の現場から~(3月2日実施)
「最先端研究の現場から」(3月2日開催)では、まず織原彦之丞東北大学名誉教授に協力いただき、原子核物理学の視点から、放射線を科学的に詳しく解説いただきました。
次に、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターに協力いただき、織原名誉教授の講演内容にあわせて、サイクロトロン(円形加速器)やPET(放射線を利用して癌などを早期診断する検査装置)などの最先端研究設備を間近に見ながら、最先端研究や身近な社会で放射線がどのように利用されているかを解説いただきました。
さらに、世界最先端の放射線検出装置や東北大学で開発された測定器を用いて、実際に参加者が放射線を測る体験も行いました。織原名誉教授にベクレルやシーベルト等の数値の意味について解説いただいた後、鉛や紙などで放射線をどれくらい遮蔽できるかを実際に確かめました。
参加者からは「専門用語は難しかったが、大学の中を見学できて、とても貴重な体験ができた」といった声がありました。
2.放射線って、そもそもなんだろう?~食の安全・安心の現場から~(3月9日実施)
「食の安全・安心の現場から」(3月9日開催)では、そもそも放射線を測るとは何か、その測定原理から測る意味まで、体験を通じて考えを深められる場を目指しました。
前半は、そもそも放射線をどうやって測っているのか。放射線を検出する材料を開発している結晶工学者の鎌田圭准教授(東北大学金属材料研究所)に協力いただき、実際に、放射線測定器の中身であるパーツや結晶を見せてもらいながら、放射線が測定できる原理について、実演を交えて解説いただきました。
後半は、市民・農家の立場から食品の放射線測定にいち早く取り組んできた、民間の放射線測定施設「てとてと」に協力いただき、これまでの活動の紹介や、身の回りの土壌や空間の放射線を参加者が実際に測ってみるフィールドワークを行なっていただきました。
参加者からは「素人にもわかりやすい実演で良かった」「前半で測定原理を理解した後に、後半で実際の測定現場見学やフィールドワークができたので、理解が深まって良かった」といった声がありました。
講演要旨・講師略歴
1.放射線って、そもそもなんだろう? ~最先端研究の現場から~
2011年3月11日の東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により、ニュース等で「放射線」「ベックレル:Bq」「シーベルト:Sv」という単語をよく耳にするようになりました。ところが、ニュース等からイメージできる「放射線」は一面的・断片的であり、さらに測定値の数字がそもそも何を意味するのかも深く理解されていないのが現状です。
①そもそも“放射線”って何だろう?
アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)線を放出する原子核とは何かから出発して原子核の物質世界に占める位置、原子核の寿命、放射線の物質との相互作用ならびに放射線の利用や人体に対する影響などについて、講義形式で平易な解説に努めながら、基礎から科学的に理解しましょう。
②放射線を測ってみよう!
様々な場所の放射線を、世界の最先端の放射線検出装置や、東北大学で開発された測定器で参加者各人が手にとって測り、測定結果を放射線スペクトルから読むことを通じて、そもそも測定した数値が何を意味しているかを理解します。「ここの土壌の放射線量は1平方メートルあたり何ベックレルだからここの空間に立っている人のセシウムー134による被爆は1時間あたり何マイクロシーベルトであるか」というような意味のある放射線測定をしてみましょう。
A班:可搬型放射線探査機(放射線サーベイメータ)、
B班:半導体検出器によるガンマ線高分解能スペクトル測定、
C班:プラスチック検出器によるベータ線スペクトル測定、
の3つのグループに分かれて測定を行います。
③最先端研究の現場から
ベータ線やガンマ線を常に放出している放射性核種はラジオアイソトープ(RI)といわれ、非破壊検査など産業や発芽防止など農業、更に医学・医療に幅広く使われその経済効果は、原子力発電所を除いても~5兆円ともいわれています。このように有用なRIを製造するための原子炉にも匹敵する加速器である大型のサイクロトロンが東北大学に設置され、がんの質的・早期診断など目的のため利用されています。また、東北大学においては陽電子断層撮影装置(PET)等の最先端の放射線計測器数多く設置され、今回のミニサイエンスディーの機会に東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンターにおいて見学することができます。
(見学予定装置:サイクロトロン本体、薬剤合成用小型サイクロトロン、不安定核生成装置、レーザー冷却RI生成装置、薬剤合成装置、PET)
織原 彦之丞(おりはら ひこのじょう)
昭和14年 新潟県生まれ。昭和39年3月東北大学理学部物理学科卒業、昭和44年4月東北大学大学院博士課程修了(理学博士)。昭和44年 4月東北大学理学部物理学科助手、昭和53年 2月東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教授、昭和59年 4月東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター教授、平成 2年4月?平成15年3月サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター長(併任)、平成15年4月 東北大学名誉教授、平成15年4月 ?平成15年4月 東北工業大学教授、平成15年4月東北工業大学名誉教授。専門分野は、原子核物理学(実験)、放射線計測、加速器物理、画像医学、放射線管理。所属学会は、物理学会、放射線管理学会。
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(Cyclotron and Radioisotope Center、略称CYRIC)は、サイクロトロンから供給される量子ビームの多目的利用、サイクロトロン生成短寿命RIの利用、RI安全取扱いの全学的な教育・訓練などを行うために昭和52年度に設立された学内共同教育研究施設です。
本センターは、加速器(理学)、測定器(理学)、核薬学(薬学)、サイクロトロン核医学(医学)、放射線管理(工学)の各研究部から構成され、理学・工学から医学・薬学に至る広範な研究領域にまたがり、更に、他大学においては独立の施設であるアイソトープ総合センターをサイクロトロン施設と統合して両者の有機的な運営を計っている点でも、国内でも他に例を見ない施設です。
特に、理工学とライフサイエンス分野の有機的連携により開拓されて来たPET、分子イメージング、粒子線治療等、放射線を用いた先端医療技術はセンターの特徴ともなっています。センターのサイクロトロンから繰り出される多彩な量子ビームにより様々な放射性元素(RI)を生成・制御し、レーザー冷却RIや放射性薬剤等の最先端技術を開拓しながら、宇宙創成の謎から分子イメージング、そして粒子線がん治療まで、量子ビームを用い多彩な研究を推進しています。
2.放射線って、そもそもなんだろう? ~食の安全・安心の現場から~
①そもそもなぜ放射線は測れるの?~放射線測定器の中身を見てみよう~
放射線検出器の応用分野は、宇宙線計測や素粒子物理を検出する高エネルギー物理学や、がん診断で威力を発揮しているPositron emission tomography (PET)やX線CTといった医療画像技術、工業用部品の非破壊検査装置、空港の手荷物検査用X線イメージング装置など多岐に渡り、実生活に幅広く役立っています。加えて我が国においては福島原発事故後の除染活動や放射線量の観測にも重要な役割を担っております。
一般に、シンチレーション式放射線検出器は、シンチレータ、光検出器に、読み出し用の電子回路を加えた形で構成されており、事実上、装置性能・仕様を決定する素子となっております。近年、水、土壌や食品中の放射線量を測定する放射能検査装置や空間線量を測定するサーベイメータなどが注目されておりますが、このような装置ではTl:NaIやBGO(Bi3Ge4O12)といった固体シンチレータが用いられております。
本講演では、実物のシンチレータ、光検出器、電子回路を使い、
1.シンチレータが放射線や紫外線を吸収し可視光を発する様子
2.シンチレータから発生した可視光を光電子増倍管が検出し、電気信号に変換する様子
3.電気信号を増幅し、増幅された電気信号の強度を放射線のエネルギーに換算する様子
4.最終的に、検出した放射線の核種や個数(放射線量)を数値化する様子
を、順を追って実演します。
私の専門は新しい高性能なシンチレータ材料を開発することですが、シンチレータの性能で重要となる、発光量、エネルギー分解能、密度、原子番号、蛍光寿命といった特性が、放射線の計測にどのどのような影響をあたえるのか実演しつつ説明します。私が開発している最新の高性能シンチレータを含め、シンチレータの種類や大きさを変えて上記1~4の実演を行います。
鎌田 圭(かまた けい)
平成17年4月 古河機械金属株式会社 素材総合研究所 入社、平成18年3月 東北大学大学院工学研究科 材料加工プロセス学専攻博士課程 修了、平成18年4月 東北大学多元物質科学研究所 民間等共同研究員、平成20年4月 東北大学多元物質科学研究所 リサーチフェロー、平成25年3月 古河機械金属株式会社 素材総合研究所 主査研究員 退職、平成24年11月 株式会社C&A 代表取締役社長(兼任)、平成25年4月 東北大学未来科学技術共同研究センター准教授、現在に至る。
②身のまわりの食物や土などの放射線を測ってみよう!
目に見えず、臭わず、さわれず、味もしない放射能。気にしないと普段と何も変わってないように思いますが、実は身のまわりの意外なところに隠れているのです。今回は「てとてと」のいろいろな機械を使って、いつもの見慣れた世界から、この見えない放射能をさがしてみることにしましょう。例えば食べ物はどうでしょうか。お米、野菜、たまご、くだもの、きのこ、お肉、一日のお食事・・。例えば土はどうでしょうか。道端の土、砂場の土、畑の土 庭の土、プランターの土・・・事故から3年たち、放射能はなくなったのでしょうか?空間線量は減りましたが、まだ意外なところに残っているのです。何が安全なのか、あるいはどんなところに気をつけたらいいのかを自分で測って、自分で調べて、自分で考えてみましょう。3年の間、数々の食品測定や環境測定を続けてきた「てとてと」スタッフが、皆様といっしょに測定のお手伝いをして質問にお答えします。
みんなの放射線測定室「てとてと」
「てとてと」は、宮城県南部にある、市民と農民による、ちいさな「町の測定室」です。たくさんの方からご支援をいただいて活動しています。大きな組織からも行政からも独立することで、誠実に正直に測定し依頼者の方にお伝えします。日常生活の中で心配しているものを、だれでも気軽に測れます。元気に生きていくために測って考える、お役にたてて、ぬくもりのある、そんな拠点です。
■ 場所 柴田郡大河原町字町200 (JR大河原駅から徒歩5分)
■ 電話FAX 0224-86-3135 サイト
http://sokuteimiyagi.blog.fc2.com/
■ 設立 2011年 11月23日
■ 主な活動内容
* 放射線測定
使用機器:①ベラルーシ製AT1320A ②AT1125 ③日本製EMF211
測定内容:食品(野菜、コメ、果樹、山菜、キノコ、たまご、豆、魚など)
環境(庭土、畑土、薪ストーブの灰、薪風呂の灰、堆肥、米ぬか、落ち葉、農業用被覆資材、ハウスダストなど)
* てと市 毎週土曜日開催
安全、安心な食材を選び「てとてと」で放射線測定。
販売品目:無農薬野菜、平飼卵、コメ、味噌、調味料、コーヒー豆、手作りこんにゃく、手作りクッキーなど