サイエンス・デイ オブ ザ イヤー2025(JST理事長賞)受賞企画概要

1.出展プログラム名
どうして?だからか!
-60年後の感覚を体験して、高齢者看護を考えよう―
2.出展団体名
公立大学法人宮城大学
3.構成員名簿(氏名・学年)
| 氏名 |
役職・学年 |
| 沢田 淳子 |
准教授 |
| 内海 史子 |
講師 |
| 成澤 健 |
助教 |
| 齊藤 千穂 |
非常勤教員 |
| 平松 穂乃 |
看護学群4年 |
| 古殿 優 |
看護学群4年 |
| 畠山 ひより |
看護学群4年 |
4.受賞コメント(約400字)
このたび、私どもが出展した「高齢者疑似体験を通じて看護を学ぶプログラム」が、大変名誉あるJST理事長賞をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。本企画は、日常で感じる高齢者の行動への疑問を出発点に、加齢による身体的・心理的変化を科学的に理解し、看護の本質に触れていただくことを目的としました。参加者には、視覚・聴覚・触覚などの感覚器、および筋力などの変化を体感できる疑似体験セットを用いて、折り紙や伝言ゲームなどの活動を通して、また、スタッフからの問いを通して、高齢者の生活の困難さや心理的負担、思いを考えていただきました。体験後の意見交換では、支援の在り方や看護の役割について考える場となり、看護が単なる「優しさ」や「補助的」ではなく、科学的かつ創造的な実践であることを多少なりとも伝えることができたのではないかと振り返ります。今後も、看護の価値を社会に広く伝え、誰もが自分事として高齢者を理解し支え合える社会づくりに貢献してまいります。
5.プログラム紹介文
高齢者の行動について、改めて思い出すと不思議に思うことありませんか?・なぜあんなにゆっくりなの?・何回も話しかけているのになぜ答えてくれない?それには理由があります。看護は、人の身体・精神・心理・スピリチュアル・社会的側面からその人を捉え、現状を理解し、ケアにつなげます。そして、高齢者を対象とする看護では、高齢者の身体や心や社会との関わり方など、様々な加齢変化を理解することが非常に重要です。今日は、一部ではありますが、高齢者の加齢変化と日常で出会う高齢者の不可解な言動の理由について、疑似体験セットを身に着け、体験をしながら探っていきたいと思います。そして、それらの理解を通して看護について考えていけたらと思います。
6.趣旨・ねらい(どのようなことをねらいとして、出展内容を考えましたか?)
本企画のねらいは、想像しがたい高齢者の身体的な加齢変化について、疑似体験を通して理解すること、そして、看護師の根拠に基づく実践の一旦に触れ、看護が科学的実践であることを知っていただくことです。加えて、これからの日常生活において、本企画で学んだ知識をもとに高齢者の行動を理解し、必要な支援を考え行動すること、すなわちプログラム参加者の自律性を支援する一助となることも意図しています。
看護師は病院で病気の人のお世話をするただ優しい?人ではありません。指示された注射や採血をするだけの人でもありません。看護師は、病態・治療内容・老化による心身の影響、それらによる今後の見通しなど多様な知識を活用して、目の前の対象者の状態を理解し、ご本人の意思と家族との関係性や生活歴を踏まえ、その時々、その場に必要な看護を提供しています。また、提供した看護を対象者の反応から評価し、さらにより良い看護につなげるという、非常に科学的で創造的な役割を担っています。
今回の企画は、これらの理解の一旦につながることを意図しています。また、「お年寄りには優しくしましょう」という、だれもがどこかで一度は聞いたことがある言葉について、「教師など大人に言われたからそのようにする」のではなく、知識を持ち、「お年寄りには優しく」と社会で多く聞かれる言葉の意味を理解して、自律的に目の前の方に応じたサポートが提供できる社会づくりの一助となることも意図しました。
7.具体的な出展内容(6.の目的を実現するために、どのような出展内容としましたか?)
参加者(小学4年生~小学6年生)にはまず、簡単なスライドを視聴していただきます。内容は、「高齢者とは:人の一生の連続性と多様性」「一般的な加齢変化」「その後の体験につながる感覚器機能の働きと加齢による変化」「それによる症状」などの理解につながるものです。また、体験による身体感覚や気持ちの変化等、体験によって考えてもらいたいことを確認します。
次に、高齢者疑似体験用眼鏡、耳栓、軍手、手首用重りを装着し、軽作業を行いながら、高齢者の加齢による身体機能の変化と、それによる生活への影響について体験します。
疑似体験用眼鏡は、加齢によって生じる白内障による色覚変化、うす暗くかすんで見える状態や視野の狭さを体験できるものです。耳栓は、高音域を聞き取りにくいという老人性難聴に特有な聞きにくさを体験できます。また、軍手の装着は、指先の動かしにくさや皮膚感覚の低下、物品のつかみにくさ、つまみにくさ、落としやすい状態を体験でき、さらに、手首に重りをつけることで、筋力の衰えによって動作が緩慢になり、疲労も伴うことから、活動に対する意欲の減退やおっくう感を体験することになります。したがって、これらの装着により、高齢者がふだん感じている加齢による身体機能の変化について、一部ではありますが、参加者は実際に体感することが可能となります。また、体験セットを装着した状態で行う「折り紙」、「瓶の中の飴を取り出す」、「伝言ゲーム」を通して、高齢者が生活の中で感じる困難さや、心理状態についても体験することができます。
「折り紙」では、指示書の入った封筒を開けるところから開始します。糊付けされた封筒を開け、中の指示書を取り出す作業は、軍手の着用により、指先の細かな運動のしにくさを体験できます。次に、指示書に書かれた文字を読み、指示された色の折り紙を選び、作り方を見ながら、指示された折り紙を折る、という工程に移ります。ここでは、疑似体験用眼鏡使用による視野狭窄や色覚変化での、字のぼやけ、読みとりにくさ、指示された色紙を選ぶことの困難さ、および、軍手装着による、手指の細かな運動のしにくさや感覚の鈍さを体験します。
「瓶の中の飴を取り出す」では、瓶の蓋を回し開け、中の飴を取り出し、飴の袋を開ける、という作業を行います。ここでは、軍手や手首の重りの装着による手先の感覚や動作の緩慢さと筋力低下により、瓶の蓋の開けにくさ、小袋の取り出しにくさ、小袋の開けにくさを体験します。
「伝言ゲーム」では、参加者をいくつかのチームに分け、列を作り、先頭の参加者から順に指示文を口頭で後ろの参加者へ伝えていきます。この作業は、他チームとの競争ではなく、正確に伝えていくことを目的とし、参加者は耳栓装着により聴力低下した状態での聞き取りにくさの体験と、聞こえにくさのある相手に、どうすれば伝わるか、という伝える側の立場についても考えていきます。
30分程の高齢者疑似体験を行った後には、参加者全体で意見交換を行います。まず、疑似体験で感じた身体的変化の特徴や、生活における困難さ、そこでの心理的な負担がどのようなものであったか、周囲からどんな助けや声がけがあったらよいか、また、身近な高齢者に当てはめて考えた時に見えてくる発見や気づき、などを共有し、加齢による身体機能の変化を抱えた高齢者と、その生活を想像し、理解を深めていきます。そして、高齢者が持てる力を発揮し、自立して、安心した生活が行えるための支援(看護)としてどのようなことが考えられるか、また、どのような環境や社会があればよいかを参加者と共に考えていきます。
8.出展内容を説明する写真や図(1点以上)

人の一生の連続性と多様性の理解につなげるスライド

感覚器機能の働きと加齢による変化の理解につなげるスライド

体験によって考えてもらいたいことを示すスライド

疑似体験するための物品

高齢者疑似体験の様子
9.科学を社会に伝えるために、特に工夫していること・意識していることは何ですか?
・「日常で感じる高齢者の行動への疑問」と「科学的に明らかとなっている高齢者の身体・心理・社会・文化的な加齢変化」を結び付ける体験となること。
・参加者自身が体験して感じた事柄を言語化し、どの様な支援が必要かを参加者全員で考える場を提供すること。
・一連の体験を通して、目には見えづらい看護の科学的、創造的な営みの理解につながるように、問いかけ、考えてもらう場にしていくこと。
・知識をもとに高齢者の行動を理解し、目の前の高齢者に応じた必要な支援を考え行動することの重要性を感じることができる場にしていくこと。
10.その他、アピールポイントなど、ご自由にご記入ください(自由記入欄)
● 【宮城県知事賞】宮城県の地域特性に関する事項
1)住みよい高齢社会の実現に向けて
令和6年、宮城県の高齢者人口は657,655人となっており、高齢化率(総人口に占める高齢者人口の割合)は29.5%で、R4年28.8%、R5年29.1%と毎年上昇しています。また、宮城県の高齢化率(※1)は、令和32年(2,050年)には39.4%に達すると見込まれており、さらなる高齢化が進むとされています。加えて、高齢化率や年齢構造、社会資源は地域によって非常に異なっています。こうした社会においては、地域住民が世代を越えて支えあい、共に住みやすい町を地域ごとに創造していくための取り組みが求められます。宮城県では、第9期みやぎ高齢者元気プラン(※2)において、「高齢者が地域で自分らしい生活を安心して送れる社会」を基本理念とし、「みんなで支え合う地域づくり」「自分らしい生き方の実現」「安心できるサービスの提供」が基本目標として示されています。この度の出展内容は、まさに、将来の超高齢社会を支える現代の子どもたちが、地域で暮らす高齢者の身体・心理・社会・文化的な加齢変化について、体験を通して理解を深めるものです。また、高齢者に対する自らのかかわり方や必要な環境の視点についても考える機会となります。その視点を持ち続け広げていくことで、今後の高齢社会において、地域住民がともに支え合い、一人一人が安心して自分らしく生活できる社会実現の一助になる内容であると考えます。
※1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」、
https://www.ipss.go.jp/(2025年5月)
※2 宮城県「第9期みやぎ高齢者元気プラン」、
https://www.pref.miyagi.jp/(2025年5月)