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2013年12月20日 応用物理学会東北支部 × 宮城県仙台第二高等学校物理部

最先端研究の現場を体感/応用物理学会東北支部が仙台二高を招待

最先端研究の現場を体感 応用物理学会東北支部に所属する研究室の見学会が12月20日、東北大学で行われ、仙台二高物理部の生徒ら13名が参加した。この会は、今年7月に東北大学で開催された『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』で、仙台二高物理部の出展が、応用物理学会東北支部の「応用物理学会東北支部長賞(しぶいで賞)」を受賞したことをきっかけに、副賞の一つとして実施されたもの。

仙台二高物理部の生徒ら13名が参加

 見学会では、支部長の安藤康夫教授(東北大学)が「工学とは?応用物理とは?」と題し、理学と工学の違いや研究生活などについて講演。続いて、青葉山キャンパスと片平キャンパスの2班に分かれ、生徒らは希望する研究室を見学した。

 このうち、青葉山キャンパス見学班では、工学研究科に所属する、次の3研究室を訪問。生徒らは最先端の研究設備に驚きながら、担当教員らの説明に熱心に耳を傾けていた。


■超高感度磁気検出センサを開発中/安藤研究室(スピンエレクトロニクス分野)

ネオジム磁石の威力を体感
ネオジム磁石の威力を体感
 最初に訪れた安藤研究室では、主に現在開発中の超高感度磁気センサについて、永沼博助教から紹介があった。同研究室では、電子の持つ「スピン (微小磁石)」という、物質の磁性の起源となる性質を利用し、新しい電子デバイスの創成を目指しているという。

 生徒らは、まず「世界最強」と言われるネオジム磁石の威力を体感。一般的なフェライト磁石との違いに、驚いた表情を浮かべていた。また、ネオジム磁石や世界初の人工磁石である「KS鋼」が日本人によって発明されたことや、日本が磁石の研究で常に世界のトップを走っていることなども、永沼助教から説明された。


クリーンルーム内へ
クリーンルーム内へ
 続いて、開発中の超高感度磁気センサの試作品を見学。鉛筆サイズの小型センサが、時計の秒針の動きから発生すると思われる僅かな磁場を検出する様子に、生徒らは興味津々。最終的には、脳や心臓から発生する微弱な生体磁気を検出できる小型センサの開発を目指すという。

 これら微細な素子をつくるためには、塵や埃の出ない環境が必要なため、作業は「クリーンルーム」と呼ばれる特殊な部屋で行われる。生徒らも、塵の出ない専用スーツに着替え、クリーンルーム内を見学。最先端研究設備に生徒らは「高校とはレベルの違い過ぎる研究内容や設備に、すごいの一言です」と興奮した様子だった。


■特殊なガラスつくり物性を制御/藤原研究室(光物性学分野)

井原梨恵助教
井原梨恵助教
 次に訪れた藤原研究室では、井原梨恵助教が研究内容をわかりやすく解説。同研究室では、ガラスに熱処理を施すことで、結晶に匹敵する機能性を持った、特殊なガラスをつくる研究を行っているという。

 そもそもガラス(アモルファス)は、構造的な規則性を持たないため、光を透過するのみで、光の制御はできない。しかし、ガラスは不定形であるため、他の元素をたくさん入れられるという特徴がある。一方、構造的な規則性を持つ結晶は、光の方向や色を制御できるが、形はすでに決まっている、という特徴がある。


光触媒の機能を持つ結晶化ガラス
光触媒の機能を持つ結晶化ガラス
 そこで同研究室では、ガラスと結晶のいわば”良いとこ取り”をするために、ガラスに熱処理を施し、微細な結晶(nmからμmサイズ*)をガラスの中につくることで「結晶化ガラス」を作製し、物性を制御する研究を行っているという。実際に、電気炉でガラスを作製する様子も実演された。*1000 nm = 1 μm = 0.001 mm。

 最後に、同研究室が開発した、光触媒の機能を持つ結晶化ガラスも紹介された。生徒が一般的な光触媒との違いを質問すると、井原助教は「従来の壁面に使用される光触媒は表面コーティングが多いため、表面が剥げてしまえば機能しないという問題があった。結晶化ガラスは、光触媒機能を半永久的に保てる点が特長」と答えており、生徒らは感心した様子だった。


■室温超伝導物質の発見を目指して/小池研究室(低温・超伝導物理学分野)

小池洋二教授
小池洋二教授
 最後に訪れた小池研究室では、小池洋二教授が「超伝導」に関する研究内容を講演。超伝導とは、特定の物質を非常に低い温度へ冷却した時に電気抵抗がゼロになり、磁束を排除する現象であることが解説された。同研究室では、超伝導になるメカニズムの実験的な解明や、より高い温度で超伝導になる物質の発見を目指しているという。

 小池教授は「電気抵抗がゼロになれば、発電所から電気をジュール熱のロス無しで送ることができる。現在、超伝導が起きる最高温は135ケルビン(約マイナス138℃)だが、もし室温で超伝導になる物質を発見すれば、ノーベル賞は間違いなし、産業革命が起こるだろう」などと熱く語った。

 生徒らからは「室温で超伝導になる物質発見の見通しは?」「超伝導で電気抵抗は本当にゼロになるのか?」「無限に冷やすことはできるのに、なぜ絶対零度は到達できないのか?」「実際そこまでどうやって冷やすのか?」などと活発な質問があった。小池教授がグラフを用いながら、丁寧に解説すると、生徒らは納得の表情を浮かべていた。


仙台二高出身で同研究室配属の学生と懇親
仙台二高出身で同研究室配属の学生と懇親
 このほか、仙台二高出身で同研究室に所属している学生と懇親する場もあり、生徒らは、大学生活に関する素朴な疑問を次々と大学生に質問していた。

 参加した生徒らは「普段は入れない場所を見学でき、自分にとって未知の世界を知れて、すごくワクワクした。本当に来て良かった」「疑問に思ったことを自分の納得できるところまで説明してくれて、霧が晴れたような気持ち。ぜひもう一度このような機会が欲しい」などと感想を述べていた。


公開:2014.02.10 コラボレーション(取材)
文責:大草 芳江

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