特定非営利活動法人 natural science は、国立花山青少年自然の家(宮城県栗原市/平成25年度 子どもゆめ基金体験の風リレーションシップ事業)と連携のもと、知的好奇心を育む科学体験教室~ものづくり講座(自作デジタル百葉箱で自然を測ろう)~」を11月23日から24日までの2日間(1泊2日)、国立花山青少年自然の家において実施し、県内の小学校4年生から6年生の児童ら43名が参加しました。
本教室は、花山の豊かな自然を活かし、自然現象を自ら作成した測定装置で定量化するプロセスを通じて、子どもたちに科学を体験してもらうと同時に、「ものづくり」の心得と基礎的な知識・技術を習得してもらうことを目的に実施しました。
また、社会の第一線で活躍する技術者から未来を担う子どもたちへ「ものづくりの心」を直接伝えてもらおうと、日本無線株式会社、株式会社日立ソリューションズ東日本、Praise Firstの3団体に協力いただき、「ものづくりのお話」と題した講話会も実施しました。
なお、本教室は、「科学・技術の地産地消レストラン」のシェフ(科学コミュニケータ)養成の実践の場としても位置づけています。
開講式では、主催者の国立花山青少年自然の家の宮田所長から、「今回は、はんだ付けで温度計と照度計を作ります。はんだ付けの歴史は古く、エジプトで紀元前3000年、中国で紀元前300年、日本では平安時代に記述があるそうです。はんだ付けは今日の社会で大事な基本技術であり、それなしに携帯もテレビも電車も動きません。現代社会の根幹をなす技術を、素晴らしい先生方から学んでください。日本では今、イノベーションを起こし、世界を牽引するグローバル人材が必要だと盛んに議論されています。皆さんも自分を強くできるよう、一つひとつ失敗しながら、スキルを磨いてください」と挨拶がありました。
今回は、2日間で温度や明るさを測る装置をつくります。お手本の装置の裏を見ると、電気を流すための回路があります。この電子回路を急につくろうとしても、きちんと練習しなければ、うまくつくれるようにはなりません。ですから今日は、明日、実際に装置をつくれるようになるための“修業”の日です。ものづくりの心得と必要な技術・知識を、しっかりと身に付けましょう。
装置をつくるための道具「はんだごて5点セット」が、子どもたち一人ひとりに渡されました。今この瞬間から、この道具は子ども自身のものです。ものづくり講座では、自分専用の本物の道具を、子ども自身できちんと管理する力も身につけてもらいます。
最も活躍する道具が、はんだごてです。はんだごては電源を入れると、金属部分が大変熱くなります。触ると火傷するため、絶対に触ってはいけません。その場に置くと危険ですから、必ずこて台の上に毎回きちんと乗せます。はんだごてではんだを温めて溶かし、装置をつくるのです。その他にも、ものを切るための道具・ニッパーや、はんだ付けを失敗した時に使うはんだ吸収線があります。
ものづくりを始める前に、まず道具の「ものづくりフォーメーション」を整えましょう。はんだごては、鉛筆のように持つので利き手側に置きます。他のものは、利き手と反対側に置きます。はんだなどよく使うものは手前側に、ハンダ吸収線やニッパーなどあまり使わないものは奥の方に置きましょう。
ものづくりフォーメーションは、とても大事です。はんだごては大変熱くなりますし、危ない工具も多いので、机の上を常に綺麗にしておかなければ、自分や他人を怪我させてしまいます。作業にも集中できません。絶対に、ものづくりフォーメーションを維持しましょう。
では、はんだごてを使う練習から始めましょう。はんだごては電源を入れると大変熱くなるので、はんだごての金属部分に触れないよう細心の注意を払います。はんだごては、効き手で鉛筆を握るように握ります。反対の手に、はんだを持ちます。
はんだ付けには、リズムがあります。1で基盤の金属部分を温め、2で金属部分にはんだをつけて溶かし、3ではんだごてとはんだを離します。溶かしたはんだは、丸くなって、すぐ固まります。これで、はんだ付けは成功です。1,2,3をリズムよく繰り返します。
はんだごての使い方はわかりましたね。さあ、はんだ付けに挑戦してみましょう。まずは、20個、基盤にはんだ付けをやってみよう。はんだ付けにも、良し・悪しがあります。はんだは少な過ぎても、後で部品がつかなくなるし、反対に多過ぎても、隣のはんだとくっついてしまって電子回路が壊れてしまうので、失敗です。
講師から良いはんだと悪いはんだを教えてもらった子どもたちは、自分のはんだを見て、良いはんだと悪いはんだの数を数えました。「これは『イモはんだ』だから失敗。これは、丸くなって、隣のはんだとくっついてないから成功だ」と良し・悪しを判断するコツを、子どもたちはつかんだようです。じゃあ、次は良いはんだ付け20個を目標にやってみよう。綺麗にはんだ付けができるようになったかな。
続いて、はんだ付けを失敗した時に使うはんだ吸収線や、LEDや抵抗などの電子部品をつける練習をして、これで基本的な技術の特訓は終わりです。今度は、電子回路をつくってみよう。今日つくるのは、LEDの点灯回路です。
今では生活にも馴染み深いLEDですが、LEDには電流の流れる向きがあり、向きを間違うと光りません。また、LEDと電源を直接つなげると、LEDに電流が流れすぎて壊れるため、間に抵抗をつなぐ必要があります。講師から電子部品の役割について説明を受けた子どもたちは、はんだごてを使って黙々と回路をつなげていきました。
最初は、はんだごてを持つ手がままならなかった子どもたちも、3時間にわたる修業で、講師たちも驚く程、めきめきと技術を身につけました。さらにLEDを2個、3個と複数つけて同時に点灯させる並列回路に挑戦した子どもも約半数いました。これで今日の修業は終わりです。「え?!もう夜になったの?気付かなかった!」と子どもたち。明日が楽しみですね。
ものづくりの心を子どもたちに直に伝えようと、1日目の夜は、「ものづくりのお話」と題して、社会の第一線で活躍する企業等3団体の技術者による講話会を実施しました。
まずは、日本無線株式会社の大槻秀夫さん(海上機器技術部舶用通信グループ)による講話です。大槻さんは、会社で船の無線機をつくる仕事をしています。そもそも電波とは何かを子どもたちに知ってもらおうと、大槻さんは電波に関する子どもたちの疑問に答えながら、クイズや演示実験を交えて電波の性質を説明しました。
次は、株式会社日立ソリューションズ東日本の錦織俊之さん(公共ソリューション本部 事業推進センター)による講話です。錦織さんは、ソフトウェアをつくる仕事について、実演を交えながら紹介した後、「自分の好きなことや楽しいことはどんどん、やってみよう、調べてみよう、考えてみよう」と子どもたちに呼びかけました。
最後に、Praise First 代表でシステムエンジニアの砂金よしひろさんが、子どもたちにプログラミングを体験してもらおうと、米MITメディアラボが開発した子供用ビジュアルプログラミング環境「Scratch(スクラッチ)」を利用して、ゲームづくりを行いました。子どもたちは、講師の話を聞きながら、積極的に質問をしていました。
1日目は、ものづくりの心得とはんだ付けの技術を学びました。きちんと身に付けて、自信がついたかな。いよいよ2日目は、昨日学んだことを土台にして、自分たちの手で、デジタル照度計かデジタル温度計をつくります。そして、自分でつくった装置で、花山の自然を測ってみよう。デジタル照度計とデジタル温度計の班に分かれて、2日目のスタートです。
昨日は、ものづくりの心得を学びました。昨日学んだ「ものづくりフォーメーション」は覚えているかな?そう講師が尋ねると、子どもたちは「覚えているよ、簡単だよ」と、ものづくりフォーメーションを整えました。皆、ものづくりフォーメーションは完璧です。今日も、ものづくりフォーメーションを乱さないよう、整理整頓して作業を進めましょう。
今日つくるデジタル温度計やデジタル照度計も、昨日、皆ができるようになったはんだ付けで回路をつくっています。本番の前に、はんだ付けの復習から始めましょう。“良い”はんだ付けは、もう完璧かな?
いよいよ、デジタル温度計かデジタル照度計の製作がスタートです。このレポートでは、デジタル温度計をつくる様子をご紹介します(センサーが違うだけで内容はほぼ同じです)。
まずは温度センサーと電池とスイッチをつなぐ回路をつくり、その後で電圧計(パネルメータ)と電池ボックスを取り付けます。「電圧計や電池ボックス、スイッチなど、大きな部品は先につけると、後からはんだ付けがしづらくなるから、小さな部品からつけるのが電子工作のコツだよ」「昨日のLEDと同じように、向きがある部品は、向きに気をつけて」「はんだを線に馴染ませてからはんだ付けをすると、部品が取れにくくなるよ」と講師は少しずつ実演しながら子どもたちに技を教えていきます。
今回つくる装置には、電流を流したり流さなかったりを切り替えたいので、スイッチをつけます。今回使う「トグルスイッチ」は5本足。両端の2本は単なる固定用で、残り3本が実質的にスイッチの役割をします。この3本のうち、真ん中とその隣の足を使い、最後の1本は使いません。ところで、なぜそうするのでしょうか。
そもそも、スイッチはどうやって回路を切り替えるのでしょう。スイッチにもいろいろな種類がありますが、今回使うトグルスイッチの中には、小さなシーソーが入っています。シーソーを支える真ん中の点と、シーソーが倒れた時に接する点が左右1点ずつあります。この3点が、先ほどのトグルスイッチの実質的な足3本に対応しています。シーソーがどちらに倒れるかで、スイッチを切り替えるわけです。このシーソーを押すものが、トグルスイッチのレバー部分。ですから、スイッチのレバーを倒した方向とつながる接点の位置は逆になるのですね。
けれども、図で説明だけではわかりにくい!と、その場でスイッチを分解して、中身を見せてあげる講師もいました。「部品もブラックボックスだと思うかもしれないけど、中身はすごく単純なんだよ、ほら」。「え?本当にいいの!?」と予想外の展開に驚きながらも、スイッチの中身を覗き込んだ子どもたちは、「本当だ!!」と歓喜の声をあげました。電気が通る道が切り替る様子が、目で見てよくわかります。
「じゃあ、問題。温度センサを電池に直接つながないのは、なぜだと思う?」と講師の質問に「ショートしちゃうから?」と子どもたち。「いいや、ショートはしないけど、都合が悪くなるんだよ。じゃあ、実際にやってみよう」「え?!いいの?」。子どもたちが注目する中、講師がセンサーを電池に直接つなぐと、電圧計の値は、問題なく表示されます。ところが問題は、スイッチを切り替えても、電圧計は表示されたまま何も変わらないこと。「そうか!だから、スイッチを間に挟まなければいけないんだね」。部品の仕組みや役割を理解しながら、回路をつないでいくことが大切ですね。
大人顔負けの集中力を発揮しながら子どもたちは着々と回路をつくり、いよいよ、デジタル温度計の完成です。「やった!できた!!」。ここまで修業を積み重ねてきたからこそ、完成した時の喜びも一入(ひとしお)ですね。
ただ、パネルメータに表示されている値は、「0.753」「0.812」と見慣れない数字です。確かに温度センサーを手で温めると、数値はだんだん大きくなるけれども、一体この数字は何だろう?ここで講師から、今回の講座の一番のポイントが、次のように話されました。
電子工作の世界では、「赤の線はプラスで、黒の線はマイナスが常識だよ」と話したね。電圧計の緑の線は、温度センサーの真ん中の足につなげるよ。皆も学校で電圧計を使ったことがあるかな?あれと同じで、その表示部分が今回、「パネルメータ」というものだよ。
けれども、「なんで、今回つくるのは温度計なのに、電圧を測るんだろう?」って、疑問に思うじゃない?実は、このセンサーは、温度が上がると電圧が上がって、温度が下がると電圧が下がる、温度と電圧が対応している、特殊なセンサーなんだよ。だから、逆に、電圧の値を読むことで、温度がわかるわけ。その対応関係をすでに調べた人がいて、その結果は、このグラフを読むだけでわかる。すごく便利なんだ。
実は、皆が知っている温度計だって、どうやって温度を測っているか、知っているかな?学校によくある温度計の中には、水銀やアルコールが入っているけど、あれは温度の変化で体積が膨張するところに、単にメモリがついているだけなんだよ。体重計だって、重さそのものを測っているんじゃなくて、体重計の中にあるバネが重さによって変わるところに、ただメモリを置いているだけなんだ。つまり、温度そのものじゃなくて、別の何かが変わっているところにメモリをつけている、それがこの世界なんだね。今回はそれを電圧でやろう、というわけなんです。
その説明を聞いた子どもたちは、「なるほど」「そうなんだ!」と納得の表情を浮かべていました。デジタル温度計が出力した電圧値から、グラフを読んで、温度を求める練習もして、これでやっと自然を測る準備が完了です。子どもたちは、好奇心に胸を膨らませ、自然の中へと飛び出していきました。
測定器を手にした子どもたちは、講師や助手とグループを組み、思い思いに自然を測りました。グループの中で、時計係・地図係・測定係・グラフ係・書記係と役割を分担し、皆で力を合わせて測定します。子どもたちは地図を見ながら「山は高い場所と低い場所で、温度が違うと思う」と予想を立て、「じゃあ、確かめに行こう」と実際に測りに行きます。そうやって、花山の地図に、子どもたちが測ったデータがどんどん埋められていきました。
子どもたちが自然を測った成果は、まとめの会で発表されました。皆の力を合わせて、温度と明るさの地図を完成させることができたのです。その結果わかったことが、温度については安田講師から、明るさについては渡辺講師から、次のように報告されました。
【温度についてわかったこと】
【明るさについてわかったこと】
最後に、やってみようさんこと八重樫講師から、「皆のおかげで、温度と明るさの地図が完成しました。やってみようさんは満足だよ。皆、協力してくれて、どうもありがとう」と感謝の気持ちが伝えられました。
そして、最後にサプライズ。「皆さんに、お土産があります。温度計を作った人には照度計の部品を、照度計を作った人には温度計の部品を渡します。ものづくりの心得と技術を学んだ皆なら、お家に帰ってからでも、自分の手でつくれるはずだよ」とやってみようさんが話すと、子どもたちは「よっしゃ!」とガッツポーズ。中には「スイッチを切り替えて照度計に温度計もつけてみよう」「格好いい箱をつけて改造しよう」と喜ぶ子もいました。
参加した子どもたちからは、「最初は、できるかなと不安に思う気持ちもありましたが、楽しくできてよかったです。皆とも交流できて、またやってみたいです」「僕は、夢と笑顔を届ける科学者になる夢を実現する第一歩として、ここに来ました。たくさんの友だちもできて、すごく嬉しかったです」と感想が述べられました。