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サイエンス・デイ オブ ザ イヤー2023(東北大学総長賞)受賞企画概要

1.出展プログラム名

声から見ることばの科学~耳と目で確かめてみよう

2.出展団体名

東北大学文学部言語学研究室

3.構成員名簿(氏名・学年)

氏名 役職・学年
木山 幸子 准教授
熊 可欣 助教
汪 敏 研究員
宋 歌 研究員
程 レイ雅 研究員
談 リウイ 博士後期課程
加藤 志織 博士前期課程
趙 叡智 博士前期課程
呉 暁芳 博士前期課程
楊 棟文 博士前期課程
王 誉誠 学部研究生
菊地 駿杜 学部4年
佐藤 沙椰 学部3年
廣原 かなで 学部3年
加藤 義也 学部2年
小泉 政利 教授

4.受賞コメント(約400字)

 末光眞希先生が創設された「文理の垣根を取りま賞」をいただいたことから、サイエンスデイ・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、東北大学総長賞を受賞することになりました。お知らせをいただいたときは、この地味なプログラムが受賞するなんて…と、とても驚きました。私たちのプログラムでは、参加者の方が、ことばを作る声の特徴について自由な発想で分析し、考えを深めてもらえるようにと工夫しましたが、そのことを審査員の先生方にお認めいただくことができ、暑い日にがんばった甲斐があったとたいへん嬉しく思いました。まことにありがとうございました。
 サイエンスデイの参加者の多くは小学生だと思いますが、子どもが自由な遊びの気持ちをもって、正しいか誤っているかも気にせずに物事の仕組みをあれこれ考えてみることは、きっと大人になってからもたくましく生きていく力になると思います。そのような考える力を育むサイエンスデイを長年発展させつづけていらっしゃるnatural scienceの皆さまや、このイベントに助力されるすべての方々に、あらためて感謝と敬意を表したいと思います。

5.プログラム紹介文

 自分の声を見たことがありますか? 私たちはいつもことばを話したり聞いたりしていますが、その音の特徴をじっくりと観察する機会はないでしょう。ここでは、まず音がどのようにしてことばを作っているかをみんなで考えてみましょう。それから、一人ずつコンピュータに向かって、音声を録音して分析するソフトウェアを使い、自分の声を図(波形、スペクトログラム)にしてながめてみましょう。そうすると、色々なことばの音の面白い特徴が見えてくるでしょう。事前申し込みなしでも、当日お席に余裕があれば飛込参加も歓迎します。

6.趣旨・ねらい(どのようなことをねらいとして、出展内容を考えましたか?)

 本プログラムで私たちが意図したのは、声という聴覚刺激を視覚的にも分析できることを実感してほしいということ、またそこから、ことばの成り立ちについて自分なりに考えを深め、答えのない新たな問題意識を見出してほしいということでした。そのために、できるだけ参加者一人ひとりが「受動的な傍観者」ではなく「能動的な体験者」となって声という聴覚刺激をスペクトログラムという視覚刺激として受けとり、ことばの仕組みについて自由に考えることができるよう、(文学部の乏しい予算の中でできることを)工夫しました。こちらから分析の観点を提示はしましたが、それはあくまでもきっかけに過ぎず、参加者方が自ら「それならこういうこともあるのではないか?」と考えを発展させていかれることをねらいとしました。(実際に参加してくださった方々は、スペクトラムの見え方の違いから、様々な疑問をなげかけてくださいました。)

7.具体的な出展内容(6.の目的を実現するために、どのような出展内容としましたか?)

7.1 全体レクチャー(20分)
 本来、言語の音と意味の結びつきは恣意的であるといわれます。その例外として、音と指示対象に一定の結びつきを持つ語彙がありますが、それが音象徴語(オノマトペ)です。日本語にはオノマトペが多く存在するといわれており、擬態語や擬音語のほか、名づけにも利用されます。子どもたちが親しんでいる「ポケットモンスター」のキャラクターは、進化前と進化後の2つのパターンがあるので、「小さくかわいい」イメージと「大きく立派」なイメージの対比をさせるのに便利です。これらの名前を利用し、それぞれの名前の最初の拍(仮名)の子音と母音の音象徴性を実感するプログラムとしました。
 実際には音象徴をもたらす音響特性は様々ありますが、時間の制約上、違いのわかりやすい母音の広母音と狭母音、子音の有声と無声(喉仏で感じられる声帯振動の有無)に焦点を当てて説明しました。

7.2 個別体験(20分)
 スタッフと参加者(家族1組)で1グループとなり、コンピュータとマイクで自分のことばを録音し、波形はスペクトログラムとして描出するソフトグラムを使い、母音や子音をともに見て分析しました。必ずしもレクチャーで言及した特徴だけでなく、自由に気づいた点を質問してもらい、ともにその理由を考察するようにしました。

8.出展内容を説明する写真や図(1点以上)


図1. 当日の様子(全体レクチャー、個別体験、審査員の末光眞希先生)


図2. 「ピ」(「ピカチュウ」の「ピ」)の波形とスペクトログラムの例

9.科学を社会に伝えるために、特に工夫していること・意識していることは何ですか?

1. 複雑なことをわかりやすく伝えるために、伝える相手の背景や関心事を踏まえて専門用語を使わずに具体的に説明し、そのことを示す最も良い例を1つだけ示すように心がけています。

2. 研究して得られた成果について発信する際は、結論を示すだけでなく、その根拠、つまりどのような手続きでどのような分析をした上でその結果が得られたのかという過程を、できるだけ忠実にわかりやすく伝えるよう努力しています。

3. 図や表といったデータを示すための材料のデザインの美しさも、科学コミュニケーションには重要な要素となると思います。「神は細部に宿る」をスローガンに、くっきりと見やすく美しく、全体として統一感のある図表を作れるに努力しています。

10.その他、アピールポイントなど、ご自由にご記入ください(自由記入欄)

 ことばは、他の動物にはない人間の高度な精神活動を反映しています。子どもは生まれてから母語を獲得しますが、一度獲得したらそれで定着するものではなく、生涯にわたってことばの使い方は変容しつづけます。成人後も、壮年から老年期にかけても、母語の語彙をより豊かにしたり新たに外国語を身につけたりするなどして学習は続きます。しかし、人間のことばの使い方の個人差や発達過程の全貌はわかっておらず、これから研究すべきことはまだまだ多く残されています。
 サイエンスデイに参加した方がことばのサイエンスに興味を持ち、言語学研究室に来てくださる日を待っています。

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