MEMSパークコンソーシアムは9月2日、仙台高等専門学校リカレンジャーを招いて、東北大学西澤潤一記念研究センターの施設見学会を実施しました。
この会は、今年7月に東北大学で開催された『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』で、仙台高等専門学校リカレンジャーの出展が、MEMSパークコンソーシアムによる「MEMSパークコンソーシアム賞」を受賞したことをきっかけに、副賞の一つとして実施されたものです。
施設見学会では、まず、戸津健太郎准教授(東北大学マイクロシステム融合研究開発センター)による挨拶がありました。
戸津准教授からは「この施設では、半導体に関する仕事をしています。例えば、スマートフォンに使われている傾きや振動に反応する加速度センサーに代表される『MEMS(※)』をつくっています。半導体の材料は、地球上に豊富に存在する元素である、ケイ素(シリコン)がよく使われます。半導体は、数十nm(ナノメートル)スケールで微細に加工されています。今日は皆さんにも全く同じ方法で半導体の加工を体験してもらいます」と説明があり、学生一人ひとりに半導体微細加工を体験する機会が提供されました。
※MEMSとは、“微小な電気機械システム”という意味の英語「Micro Electro Mechanical Systems」の略。
数十nmスケールで半導体を微細に加工する過程では、わずかな塵が物質の表面に付着するだけでも故障の原因となります。そのため作業は、「クリーンルーム」と呼ばれる、空気中の塵を追い出したクリーンな空間で行われます。なお、配布資料も、クリーンルーム内で使用可能な塵が出ない紙(無塵紙)が使われていました。
学生らもクリーンルーム用のスーツに着替え、いざ、クリーンルームへ。これから体験するのは、「単結晶シリコン」という材料でつくられた、厚さ525μm、直径100mmのウェハに、実際に微細加工をしていく作業です。
シリコンウェハに思い通りのパターンを微細に加工する工程は、大きく2つに分かれます。
第1の工程は、「フォトレジスト」と呼ばれる感光性の材料に、光を使って目的のパターンを焼き付ける作業です(図)。具体的には、まずシリコンウェハに適量のフォトレジストを垂らし、高速回転する専用装置に入れて、遠心力で2μmの厚さに均一に塗ります。
そして、ウェハを加熱してフォトレジストを固めた後、目的のパターンが描かれた「マスク」をかけて、紫外線を当てます(露光)。
今回使ったフォトレジストは、光が当たった部分だけ樹脂分子が細かくなり、アルカリ溶液に溶けやすくなる性質があるそうです。すると、光が当たるマスクの窓の部分だけアルカリ溶液に溶けやすくなるため、後で溶液で洗ってやることで、マスクのパターン通りにフォトレジストを残すことができる、という仕組みです(現像)。
フォトレジストのパターンができた次は、第2の工程として、フォトレジストで保護されていない剥き出し部分を掘る「エッチング」という作業があります。
エッチングにも目的等に応じて色々な種類があるそうですが、今回は「シリコンの深掘り反応性イオンエッチング(Si DeepRIE:RIE=Reactive Ion Etching)」を体験しました。
RIEとは、真空容器中で、ガスに電圧をかけてつくり出したイオン(プラズマ)を基板にぶつけることで、物理的・化学的に掘っていく技術です。
MEMSはより狭く深く掘ることが要求されるため、この深掘りRIEがよく用いられるとのこと。ただし、垂直方向だけでなく同時に水平方向も掘ってしまうため、ではどうするかと言うと、エッチングと保護膜形成を繰り返し行うことで、もとのマスクの形状を保持した厚い構造を作成するそうです。
半導体の微細加工技術は、現代の高度情報化社会を支える根幹の科学技術です。しかし、私たちはその恩恵にあずかっているにもかかわらず、それがどんな科学や技術のプロセスでつくられるかは、意外と知らないもの。
参加した学生らは、「パソコンの部品はこうしてできているんだ」「大学の本格的な研究設備に大変驚いた」といった感想を述べていました。
戸津准教授は「実際に半導体に触れる機会は少ないと思います。半導体とはどんなものかを知ってもらう機会になれば」と話していました。