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【ご意見01】「科学は技術ではない~世の中の誤解が科学の進歩を妨げる~」川添良幸さん(東北大学未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー、名誉教授ドットコム株式会社代表取締役)からのご意見①

皆さん、こんにちは。知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて、仙台で科学教育活動を行っているNPO法人 natural science の大草芳江です。これから世の中を知的好奇心あふれる心豊かな社会に変えていく力を貯めていくために、皆さまからのご意見を集め、またそれに対する私の考えも述べる形で、YouTubeで発表していくことにしました。

 お一人目のご意見は、スーパーコンピューターを活用したシミュレーション計算による計算材料学の草分けで、東北大学で第1位の出版論文数を誇る、川添良幸先生(東北大学未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー、名誉教授ドットコム株式会社代表取締役、NPO法人科学協力学際センター代表理事)からのご意見です。川添先生からはとても長いお手紙をいただきましたので、これから3回に分けてお届けします。それでは、川添先生からの1つ目のご意見をご紹介します。

川添良幸さんからのご意見①
「科学は技術ではない~世の中の誤解が科学の進歩を妨げる~」

 「はじめに、世の中には誤解があるので、科学と技術の定義付けから始めなければいけません。世の中では『科学技術』と、科学がまるで4文字熟語のように扱われていますが、そもそも科学と技術は全く別のものです。

 科学とは、これまで定量化していなかったものを定量化して一般化することで、これまで見えていなかったものが、見えるようになることです。ですから、役に立つために科学をやっているわけではありません。科学の結果を使って何かに役立たせたりすることは、技術の話です。もちろん、技術の人が科学を使うことはよいことですし、最終的に役に立ったり、社会に貢献したりすることは、よいことです。

 しかし、まず『何かの役に立つ・立たない』を言っているレベルの科学は、大した科学ではありません。後で大化けする可能性がある科学は、その時点では何の役に立つのかがわからないものですよ。そのような意味で科学は技術とは異なり、また芸術やスポーツと同様に、その存在に価値があるものです。にも関わらず、芸術やスポーツは『それが何の役に立つのですか?』とは誰も聞かないのに、科学だけが『それが何の役に立つのですか?』と聞かれることはおかしいことです。

 ところで、大草さんたちのnatural science は、『サイエンス』と謳っているのに、やっている『科学・技術講座』は、”科学”ではなく”技術”の教育ではないでしょうか。回路を組み立ててソフトを入れてロボットを動かすことを『科学・技術教育』と呼んでしまうと、既存技術の組み合わせはできても、これまでとは違うものは、なかなかできてこないのではないでしょうか。」

「ナチュラルにサイエンスをやろう」と起業

 川添先生、貴重なご意見ありがとうございます。まさにnatural science は日本語にすると「自然科学」ですので、「言っていることと、やっていることが違うんじゃないか」というご指摘は、特に自然科学分野の研究者の方々からよくいただきます。このnatural science という法人名、実は私たちは「自然科学」という意味で名付けたのではなくて「ナチュラルにサイエンスをやろう」という人たちで集まって付けた名前なんです(2005年に起業、2007年にNPO法人化)。


特定非営利活動法人 natural science のロゴ(デザイン作成:大草)

 では、「ナチュラルにサイエンスをやる」とはどういうことかというと、そもそも人間が持つ最も強い力は、人間誰しもが生まれ持っている知的好奇心です。知的好奇心が発動されれば、その人の心も豊かになるし、また、まわりの人の心も豊かになる、その共感の輪によって、心豊かな社会はつくられていくのではないか、という信念があります。

 一方で、社会的背景としては、世の中が成熟化して細分化・複雑化するほど、目の前の目的や効率性と引き換えに、知的好奇心が発動する機会は奪われている、という強い危機感がありました。ですから、そうではなくて、ナチュラルに自らの知的好奇心を起点にしてサイエンスをやれる場を、自分たちでつくっていこうという想いを込めて、名付けた法人名がnatural scienceです。

科学の研究プロセスを教育的価値として社会と共有

 そのようなわけで、当時自分はまだ学生でしたが、同じ想いを持つ若手研究者や学生たちで集まって週末研究をしたり、自然を前にしてその場で自らの知的好奇心から実験系を組み立てたりする活動から始めました。

 川添先生も仰るとおり、科学は何かの役に立つとかいう話ではないのですが、何とか社会との接点をつくれないものかと議論しまして、科学のプロセスは教育的価値として社会に還元できるのではないかという結論に至りました。

 そこで、科学の研究プロセスを教育的価値として社会と共有化する試みとして、まずは「体験型自然科学の教室」という科学教育活動からスタートしました。

科学のプロセスを社会と共有する試み『体験型自然科学の教室』

 「体験型自然科学の教室」とは、宮城の豊かな自然の中で春夏秋冬行っていた、幼児向けの科学教室です。科学教室ですが、知識を与えることが目的ではありません。子どもにとって自然は教室です。自らの五感で自然を感じることから、知的好奇心は育っていきます。参加する研究者たちは、自然を前にしてその場で青空実験系を組み立てて、参加する子どもたちは研究者のその「ふしぎだな」を一緒に実験してもよいし、自由に自然と遊ぶのでもよいというスタイルです。これまで県内の海や森、雪山をフィールドにして計13回実施し、様々な実験系を組み立て、のべ約300名の親子にご参加いただきました。


宮城の豊かな自然の中で春夏秋冬開催した『体験型自然科学の教室』

「積み重ね」を体系化しやすい工学(技術)的アプローチへシフト

 研究プロセスには、科学的アプローチのみならずエンジニアリング的な要素もあります。青空実験系の中には、自然科学の他にも、自然条件下で如何にコントロールするかという、ものづくりもありました。開催を重ねるうちに、とはいえ科学的思考力の育成には「積み重ね」が必要ではないかとの議論に至りました。それを科学の領域で「積み重ね」できれば理想的なのですが、そのためには知識と経験が必要になってくるため、「積み重ね」の領域を体系化しやすいエンジニアリング的アプローチ、つまり技術の方に重心を置いた教室の方にシフトしていったという次第です。それが現在の「科学・技術講座」になっています。


圧倒的な基礎力と創造力を育成する『科学・技術講座』

将来的には理学(科学)的アプローチも展開

 そのような意味では、「科学・技術講座」と、科学と技術の間に中点(なかてん)を入れ、「科学と技術は別物」という認識を入れ込んではいるものの、まさに川添先生ご指摘の通り、現段階では中点(なかてん)なしの「科学技術」、つまり、科学の結果を使って何かの役に立たせる技術教育を行っているのが現状です。それでも敢えて「科学・技術講座」と中点を入れている理由は、後々は技術と並行して科学もやっていきたいという想いを込めているからです。そのためには、川添先生のように、本当に科学をやってきた経験豊富な専門家の方々のお力添えなしには実現できないものと思っております。ですので、ぜひ、川添先生のお力をお貸しください。どうぞよろしくお願いいたします。

NPO法人 natural science のHPはこちら
川添良幸さんへの詳しいインタビュー取材記事は「宮城の新聞」からもご覧いただけます

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