ホーム > 動画配信 > 【ご意見02】「効率化の弊害~受け身から創造性は生まれない~」川添良幸さん(東北大学未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー、名誉教授ドットコム株式会社代表取締役)からのご意見②

【ご意見02】「効率化の弊害~受け身から創造性は生まれない~」川添良幸さん(東北大学未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー、名誉教授ドットコム株式会社代表取締役)からのご意見②

 皆さん、こんにちは。知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて、仙台で科学教育活動を行っているNPO法人 natural science の大草芳江です。これから世の中を知的好奇心あふれる心豊かな社会に変えていく力を貯めていくために、皆さまからのご意見を集め、またそれに対する私の考えも述べる形で、YouTubeで発信していくことにしました。

 今回いただいたご意見は、東北大学名誉教授で現在、「名誉教授ドットコム」というコンサルティング会社の代表取締役を務めていらっしゃる、川添良幸先生からのご意見です。川添先生はスーパーコンピューターを活用したシミュレーション計算による計算材料学の草分けで、東北大学で歴代1位の出版論文数を誇る研究者です。川添先生からは長いお手紙を頂戴したので何回かに分けてお届けしておりまして、前回は「科学は技術ではない」というご意見をご紹介しました。今回は「効率化の弊害」についてのご意見をご紹介します。

川添良幸さんからのご意見②
「効率化の弊害~受け身から創造性は生まれない~」

「入学試験でも何とかランキングでも、誰かがつくった『お題』を与えられることに慣れさせられ過ぎていることは問題だと思います。我々研究者もやはり研究費が欲しいから、国がつくったお題に慣れさせられてしまっています。誰かがつくったお題が間違っているとは言いませんが、本当は、誰も先のことなんか見えないはずです。それぞれが好き勝手におもしろいと思うことを形にしていったら、その中からたまによいものが出てくることが、全体にとってプラスということをやれるかどうかではないでしょうか。

 子どもたちも『入試に受かりなさい。この問題はこう解けばいい』とお題と回答を与えられることに慣れさせられています。逆に、よく考えていたら、時間切れになってしまいます。『もっとおもしろい問題があった』という子どもの育て方ができません。そうやって成長した学生たちは、本来お題も回答も存在していないからこそ行う研究でさえ、お題待ち・回答待ちです。

 世の中は一見立派になって、色々な情報をすぐ入手できるようになり、効率化がどんどん進みました。しかし効率化と最も相性が悪いのが、教育と研究です。日本にお金がないのが根本的な問題ですが、教育に投資できないことが一番の問題でしょう。もし中国が本気で教育にお金をかけたら日本はアジアの中でさえ下のレベルになって、日本の子どもたちのマインドがもっと悪くなってしまいます。よくしたい、よくなれ、と言ってもやる気さえ無くなり、諦めてしまうことが最も怖いことです。

 ところで、大草さんたちnatural science の『科学・技術講座』は受益者負担で提供している分、成果を求められますよね。成果を求めれば、子どもたちにお題と回答を与えざるを得なくなるので、本当の意味での創造性や主体性を育てる目的とは、相反するのではないでしょうか。」

受身の姿勢では創造的なことなんてできない

 川添先生、貴重なご意見ありがとうございます。私自身も学生の頃、誰かが与えてくれたお題で高得点を取るために、正解といわれるものを必死に暗記しながら頑張ってきたタイプでしたので、誰かから正解を与えてもらわなければ常に不安でした。ましてや、まさかその与えられた枠から外れて、川添先生が仰っているような、自分がおもしろいと思うものを形にしていく世界があるなんてことは、想像すらできていませんでした。

 しかし、こんな受身の姿勢のままでは、とても創造的なことなんてできないということは、薄々感じておりまして、こんな受け身の自分をつくったのは、もちろん個人の素質はあるものの、そもそも効率化を追い求めてきた社会の弊害のせいだと考えました。そして、受け身の自分を変えるため、そして、そんな受け身の自分をつくった社会を変えるために起業し、このnatural science をつくった、という経緯があります。

受け身の現実的な問題

 この受け身の弊害というのは、かなり根深いものでして、まず自分が哀しかったことは、あんなに一生懸命「正解」といわれるものを暗記したのに、ではいざ、本当に自分の意思で何かをつくりたいと思った時に活用できるかというと、あんなに一生懸命時間を割いた割にはなぜか活用できないという、現実的な問題がありました。

 よくよく考えてみれば、本来ならテストに出る問題だって自分の生きている世界の中から生まれてきた知識であるにも関わらず、自分でもびっくりするぐらい、それが自分の生きている世界と乖離していたのです。この状態を私は勝手に「リンク切れ」と呼んでいます。

外発的モチベーションの弊害

 その原因を私たちは、自分が知りたいという内からの知的好奇心、つまり内発的な動機付けではなく、テストや評価といった、外から与えられた目的のためにやらないといけないからやるという、外発的な動機付けでやる状況になっていることが原因だと考えています。

 外発的な動機づけの場合、先程お話したような「リンク切れ」状態に加えて、外から目的の供給がなくなれば、そもそも動く動機付けがなくなる、という実質的な問題もあります。

 さらにもっと深刻な問題は、外発的動機づけが発動すればするほど、元々の内発的動機付けの源泉そのものがしぼんでしまうという問題です。私自身も学生の頃、起業して自分の足で立たなければもう自分の未来はないと思い詰めた一番の理由は、あまりにも自分が受け身で、外発的な動機付けで生きてしまったせいで、このままでは自分の知的好奇心が消えてしまうと、思い詰めたことが一番の理由でした。

 知的好奇心は人間の生きる力そのもので、私たちの社会を心豊かにする原動力です。その失われてしまった知的好奇心を取り戻すために、この活動をしていると言っても過言ではありません。

内発的モチベーションに根ざした科学教育の開発

 そのようなわけで、natural scienceで行っている科学教育活動で、最も重視しているのが、この内発的動機付けです。

 もともと科学や技術は、人の内発的動機付けによって生まれてきたものです。ですから、その科学や技術のプロセスを教育に応用し、教育的な価値へと変換することによって、内発的動機付けに根ざした科学教育が開発できるのではないかと考え、2005年の活動開始以来、オリジナル講座の開発や科学イベントの開催を行っています。

約300コマ全12章の体系的なカリキュラム

 そのひとつが『科学・技術講座』で、自分がおもしろいと思うことを形にできる圧倒的な基礎力と創造力を養うことを目的とした講座です。

 川添先生ご指摘の通り、本講座は受益者負担で提供しているものですし、また、そもそも教育は、ある意味では「お題」と「回答」を与えながら人を育てていく営みですので、「好き勝手にやってごらん」と放置するものではありません。

 子どもたちの「自分がおもしろいと思うことを形にしたい」という内発的動機付けを一番のベースにしながら、約300コマ全12章立ての体系的なカリキュラムと様々なコースを、すべてオリジナルで開発し、アイディアを形にできるだけの基礎力を徹底的に鍛えます。

 本講座で育成する基礎力とは、実際に研究者や技術者等の専門家が使っている基本的な知識や技術ですので、小学1年生から大学生まで、それぞれの理解度や進捗度に応じて進められるようスモールステップで細分化しながら、基礎力を青天井で育成していくことが特長です。

 ひとつひとつの法則や部品の意味を、実感を伴いながら理解を積み重ねつつ、常に主体性を促す設計を様々な階層で施しています。

自らのアイディアを形にしてコンテストに挑戦

 こうして基礎力が十分身についた受講生には、自らのアイディアを形にして発表する場として、各種コンテストへの参加を推奨しています。そして、その成果は数々のコンテストでの入賞や世界大会出場などの成果として現れています。

 それらの成果やそこに至るまでの過程での受講生の内面的成長といった教育的な価値を保護者の方とも共有化することで、川添先生ご質問の「主体性や創造性を育てる」ことと、「求められる成果に応える」ことの両立を目指している次第です。

講師育成に膨大なエネルギーと時間

 ただし、教育はやはり人ですので、一番は教える側の人間が、如何に内発的動機付けの重要性を認識した上で子どもたちと接せられるかが、一番重要です。いくら設計がうまくできたとしても、人なしにはそれが機能しないからです。

 実はこっちの方が大変で、natural scienceとしても、この講師育成に膨大なエネルギーと時間をかけています(講師育成の詳細は、次回の動画でお話させていただきます)。この人材育成の方にも引き続き川添先生からのお力添えをいただけますと幸いです。どうもありがとうございました。

NPO法人 natural science のHPはこちら
川添良幸さんへの詳しいインタビュー取材記事は「宮城の新聞」からもご覧いただけます

動画配信の最新記事


TOP