「科学・技術の地産地消レストラン」シェフ 青木さくら(東北大学理学部物理学科2年)
学都「仙台・宮城」サイエンスコミュニティでは、「科学・技術の地産地消レストラン」と銘打ち、様々な地域リソースを活用した科学講座を開発・実施することで、地域の知的資源が次世代育成に還元される循環をつくることを目指しています。この「科学・技術の地産地消レストラン」のシェフとして今回私が開発・実施した講座について報告します。
私は、現状の教育を受けてきて、「勉強は教えてもらって受け身でやるものだ」というように思っている学生や、「問題と答えが決まっていてそれを覚えることが勉強だ」と思っている学生が多いことが気になっていました。これは、義務教育までの授業が、学生が受動的に受けるスタイルになっているのが原因だと思いました。それに対し、楽しく学べる形式で、学びたい、もっと力をつけたいというモチベーションを高めることができれば、このような問題が解決すると考えました。そこで、「学びたい」「もっと力をつけたい」「楽しく学べる」の3点に注目し、ゲーム形式でゲームを進めながら自学自習スタイルで能動的に物理学を学ぶことのできる物理クエストという講座を開発しました。
物理クエストは、単にテストの点が取れるだけでなく、自分に科学的思考力が身についていく実感が持てるようなゲーム形式の講座です。本来、物理学を理解するには、現象のモデル化、定式化、実験系の構築や解析が必須であるにも関わらず、高校の授業では、あらかじめ用意されている実験や教科書を覚えてテストを受けるという作業になってしまっています。物理クエストは、上記必須項目が必然的に身に付けられるようなクエストというお題を解きながら、物理ワールドを冒険するというゲーム形式の講座になっています。
物理クエストは一回4時間で行い、月1回程度開催され、何度でも参加できるものとなっています。また、ゲームを進めるうえで毎回突破しないと進めない通過点が設けられて、自然に復習ができるスタイルとなっています。前回(2月14日)に引き続きの実施ということで、今回は物理クエストI第2節というタイトルで講座を行いました。
実施日時:3/30(月) 13:00-17:00
参加者:小学生2人、中学生5人、大人1人
物理ワールドには、参加者の誰もが突破する必要のある入場クエストという門があり、前回の参加者も今回はじめての参加者も、それに挑んでいました。入場クエストは電子工作の門、プログラミングの門、物理学の門の3つがあり、1時間に1回、全部で4回行いました。
入場クエストが突破できなかった受講生は、物理ワールドで物理学を学んでいくための基礎的な知識や技術を身に付ける浪人クエストというものに取り組んでいました。浪人クエストには、入場クエストの3つの門に対応したクエストがたくさんあり、受講生は自分のレベルや目的に応じて選んで解くことができます。今回は、電子工作に取り組んでいたのが6人(小学生1人、中学生4人、大人1人)、プログラミングが1人(小学生)、物理学が1人(中学生)でした。
参加者はそれぞれ自分でやりたい課題を選び、失敗するたび練習したり講師や他の参加者に教えてもらったりしながらめげずに同じクエストに何度も挑戦する小中学生や、失敗したから無難に少し難易度を下げたクエストをやる中学生、学校ではまだ習っていない高校物理にあえて挑む中学生など、それぞれの目的や性格に応じたスタイルで参加していました。前回の物理クエストのときにはじめてはんだ付けをした中学生は、今回は複数の素子を使った回路図が必要なLED点灯回路を作成するまでに至っていました。
また、2回目の参加者である中学生が、電子工作が初めての大人に対して、きれいなはんだ付けの仕方を教えている様子が見受けられ、自分ができるようになったことを他のひとに教えてあげたいという中学生の姿勢や、年下からでも学びたいという大人の方の意欲が感じられ、学びが連鎖していく様子を見て、とても嬉しく思いました。
今回の受講生で入場クエストを突破できたのは一人だけでした。入場クエストを突破したのは今回初参加で最年少の小学4年生で、1回目の入場クエストで失敗したもののリベンジし、2回目の入場クエストで電子工作の門を突破しました。
前回の講座を受けて、私たちは今回システム面、演出面、実施方法の3点についてそれぞれ改良を行いました。
まずシステム面についてですが、クエストの難易度の多様化、クエストに煮詰まったときに自分から進んで調べやすい工夫、参加者同士で教えあうのを促進する制度の導入を行いました。概ね改善が見られましたが、参加者同士の交流に関しては課題が残りました。より参加者がお互いに自分の得意なものや好きなものを教えあったりしながらゲームを進めていけるような工夫を新たに考えたいと思います。
次に、演出面についてですが、テーマソングに加えて、今回は衣装を用い視覚的にも演出を加えました。この点はまだまだ改良できると思うので、次回以降はさらなる工夫を加えていきます。
最後に実施方法についてですが、クエストの掲示を見やすくする工夫、クエストの管理方法の工夫を行いました。これらについては改善が見られましたが、円滑な進行の方法には課題が残りました。各コースに担当講師を割り振るなど、より参加者がゲームを進めやすくする工夫をしようと思います。
また、今回新たな問題点として、初めての参加者と2回目の参加者とで雰囲気が割れているように感じたので、2回目以降の参加者が自学自習スタイルの見本となるようなシステムを作りたいと思いました。他にも、より安全面に配慮した制度の導入等、もっと改善できる点が多数あるので、次回までに改善し、より参加者が学びやすい環境・システム作りをしていくつもりです。
参加した受講生から取ったアンケートでは、次回も来てやりたいかという質問に対し、全員から「はい」という回答をもらうことができました。また、今日来て成長したと思うかという質問に対し、8人中6人から「はい」という回答があり、「いいえ」と回答した2人も、今回は初めてであまり進められなかったが次回も来てもっと進めたいという積極的な感想がもらえました。
「前回はじめてやったときよりもはんだ付けが上手くなっていて、自分の成長を感じられてよかった」「経験値が上がっていくのが嬉しかった」「自分の問題解決能力があがっていいと思った」「自分が好きなものを自由に学ぶことができて良かった」などの声があり、今回の講座を受講生に満足してもらうことができました。
科学・技術の地産地消レストランの試食会という位置づけで実施した今回の講座では、講座後に参加者からより良い講座にするためにたくさんの意見をもらいました。次回以降の講座で積極的に取り入れていこうと思っております。
私は物理クエストの参加者に毎回、学校の授業と比べてどうだったか?ということを聞いています。前回の参加者の意見も今回の参加者の意見も「自分で学びたいものを選べるのがいい」「達成感があるのがいい」「楽しく参加できるのがいい」の3つに集約することができました。つまり、選べること、達成感があること、楽しいことの3つが参加者のモチベーションを上げていると考えられます。
冒頭で、楽しく学べる形式で、学びたい、もっと力をつけたいというモチベーションを高めることができれば、現在の学生の多くが陥っている受け身の学習ではなくなるのではないかと述べましたが、上の3つはそれぞれ「学びたい」「もっと力をつけたい」「楽しく学べる」に対応しています。これら3点について最大限に活かした講座ができれば、物理クエストは能動的な学習を促進する新たな教育モデルになると思います。今後はこれら3点に特に注目していこうと思います。
さらに、物理クエストは、講座を受ける受講生だけでなく、開発・実施を通して講師をする大学生自信も成長できると感じました。自分の開発・実施した講座をより良いものにして再実施するという取り組みは問題発見・解決能力、内容を要素ごとに分類し順序づけする能力など普段大学で勉強していても身に付けることのできない能力を高められます。また、得意な方面(実験、数値計算、理論)が異なる3人の講師が組むことで、それぞれ自分の得意分野を活かしながら協力して開発することができます。
この取り組みを続けていき、自分自身成長するとともに、参加者にもっと夢中になってもらえるような物理クエストにしていきたいです。次回もまた来月に実施するつもりなので、まずはそれまでにできる限りの改良をしたいと思います。