私たちが現在見る「仙台牛」の多くは、ここ宮城県畜産試験場が兵庫県から導入し改良を手がけた種牛「茂重波号」の血統を引く牛です。仙台牛はじめ優秀な雄牛の精子が、ストローで凍結保存される様子をテレビ等でご覧になった方も多いのではないでしょうか。実は、日本のウシのほぼ99%が人工受精で生まれているそうです。その技術の一つ「受精卵移植技術」をご紹介いただきました。
受精卵移植技術とは、優秀な雌牛にホルモン剤を投与して過剰排卵を起こさせ、その雌牛の発情期に、優秀な雄牛(種牛)の精液を人工授精させ、できるだけ多数の受精卵を得て、液体窒素で凍結保存する技術です。これを代理母となる雌牛に移植し、受胎すれば、優秀な母親と父親から、優秀な子牛を多数得ることができるというものです。
受精卵を得る方法は、他にもあります。食肉市場などで解体処理された優良な黒毛和牛種から、不要物だった卵巣を取り出して、状態の良い卵子を選別して培養し、試験管の中で卵子と精子を受精させる体外受精の技術です。この畜産試験場で生産した体外受精卵は、受精卵移植の専門家のもとから、県内の農家へ渡り生産・肥育され、また食肉市場に出荷され牛肉となる・・・、と地域循環型の仕組みになっているとのことです。
黒毛和種の受精卵は、乳牛として有名なホルスタイン種に移植し、ホルスタイン種から黒毛和種の子牛を産ませることがよく行われているそうです。高値で取引される黒毛和種の子牛を産ませつつ、乳搾りもできるというわけで、なるほど、そんな合理的なことができるのかと驚きました。なお、酪農家には、母牛を飼育し子牛を産ませて競り市場に出荷する「繁殖農家」と、子牛を競り市場から買って育てる「肥育農家」の2種類あるそうです。ちなみに、宮城県には繁殖農家が多いそうで、宮城県の黒毛和種子牛取引は最近、全国1位をキープしているそうです。
このほか、超音波画像診断装置で卵巣を観察しながら卵子を吸引採取して体外受精させ、受精卵を生産する技術や、一個の体細胞からクローン牛を生産する技術など、高度な技術を持つ同試験場。その高い技術力が買われ、最近では高知大学と共同で、液体窒素を使わずにフリーズドライで精子を保存する技術を共同研究しているそうです。
私たちが美味しい牛肉を安定的に食べられる背景には、長年にわたる試験研究と畜産技術の向上があることを体感した取材となりました。