産業技術総合研究所東北センター(仙台市宮城野区)で8月10日、一般公開が行われ、家族連れら約560人が、同所研究者による実験や工作教室などを楽しんだ。
このうち、「実験ショー燃料電池のおはなし」では、燃料電池について講義があった後、身近な材料を利用して電気をつくる演示実験が行われた。講義では、燃料電池が水の電気分解と逆の反応で、水素と酸素を反応させて電気を取り出す仕組みであることや、燃料を供給すれば長時間連続して発電できることなどが説明された。
「実験ショー燃料電池のおはなし」で、備長炭を使って燃料電池をつくる演示実験の様子[/caption]
続いて、備長炭を使って燃料電池をつくる演示実験が行われた。重曹を溶かした水に備長炭を入れ乾電池をつなぎ、水を電気分解すると、備長炭には小さな穴があるため、マイナス極につないだ備長炭には水素が、プラス極につないだ備長炭には酸素が蓄えられる。備長炭から乾電池を外して電子オルゴールをつなぐと、今度は備長炭に蓄えられた水素と酸素から電気が生まれ、音楽が鳴る様子に、子どもたちは興味深そうに見入っていた。
また、熱エネルギーと電力を直接変換できる電子部品「ペルチェ素子」を使い、温度差で発電する実験もあった。氷で冷やしたペルチェ素子を手で温めるだけで電気が発生し、おもちゃが動くと、子どもたちは「すごい」「本当に動いた」と驚いた様子だった。
「カラフル粘土で絵を描こう」では、産総研が開発した新しいフィルム材料「粘土膜」を子どもたちが塗り絵で体験。粘土膜は、環境にやさしい粘土を原料としたフィルム材料。厚さ約1ナノメートル(ナノは10億分の1)の粘土の結晶が、向きをそろえ緻密に積み重なった構造をしている。柔軟でありながら、プラスチックより熱に強く、ガスを通さない性質に優れている。
一般公開では、特殊な環境を必要とせずに、原料の粘土を混ぜ合わせたインク入りの水溶液をシートに薄く塗って乾燥させるという、簡単な方法で粘土膜が作れることを、塗り絵で体験。粘土膜は現在、水素ガスをほとんど通さない燃料自動車向けの軽量水素タンク用素材や、太陽電池の劣化を防ぐシート材料などへの応用が研究されている。
このほか、同センターの前身にあたる工藝指導所の試作品展示コーナーでは、工藝指導所出身で世界を代表するインテリアデザイナー・剣持勇の家具などが展示された。また、味噌汁のうずを再現する実験や、専門知識無しに誰でも工作機械でハンコを加工できるコーナーなどが、子どもたちの人気を集めていた。共催の製品評価技術基盤機構東北支所のブースでは、カビや細菌など身近にいる微生物を観察したり、電池の種類や正しい使い方を学ぶ体験などがあった。
同センター所長の三石安さんは「同所をご存じない方にも気軽に来ていただき、地域でこんな研究所があることを知ってもらえたら嬉しい」と話している。