東北ILC推進協議会は12月4日、宮城県古川黎明中学校・高等学校(庄子英利校長)で国際リニアコライダー(ILC)に関する講演会を開催し、同校の高校1年生約240名と中学生約264名、および聴講を希望する保護者らが参加した。
講演会では、主催者を代表して東北ILC推進協議会事務局の小川豊次長が「ILCの研究内容や意義、素粒子物理等を体系的に理解し、基礎科学の重要性への理解を深めて」と挨拶した。
続いて、古川黎明の庄子校長が講師の山下了准教授(東京大学)を「欧州原子核研究機構(CERN)の国際協同研究でヒッグス探索グループ統括責任者を務めた」などと紹介した後、山下准教授が「宇宙の謎を解き明かす最先端科学」と題して講演した。
素粒子物理学は、世の中で一番小さなものを研究する分野。一方、天文学や宇宙物理学は、世の中で一番大きなものを研究する分野。そんな一番小さいものを研究する分野と一番大きいものを研究する分野が今、一つの世界になっている。
宇宙には、始まりがある。宇宙の年齢は、約138億年。ビックバン以来、宇宙は膨張し続け、宇宙はどんどん広がっている。逆に、どんどん遡ると宇宙は小さくなって、一番最初に到達する。私たちが知りたいのは、一番最初の宇宙がどうやって始まったか。
研究施設は、国際リニアコライダー(ILC)と言う、非常に大きな装置。電子とその反対の電気を持った「陽電子」を、装置の中で光の速さ近くまでどんどん加速して正面衝突させ、それを超高感度な検出器で検出する。24時間体制で、10年、20年、ずっと研究する。
このように、加速された粒子を正面衝突させる加速器を「コライダー」という。コライダーは世界中にあり、スイス・ジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)にある円形加速器が、現在の最先端装置である。
その次を行くのが「リニアコライダー」だ。今まで丸かった加速器を真っすぐにして、素粒子を直接反応させる装置である。世界約50ヶ国、約400研究機関、約2000人の研究者が協力して、この計画を作っている。
もう一つの謎が、「暗黒物質」だ。宇宙を観測すると、今までわかっっていた素粒子以外に、暗黒物質がたくさんあることがわかっている。暗黒物質は正体不明だが、新しい素粒子ではないか、と言われている。暗黒物質も、加速器を使って人工的に作り出せるかもしれない。
宇宙を研究するためにつくられた加速器は、医療や製薬など、いろいろな分野で応用されてきた。例えば、癌の場所を調べるための陽電子放射断層撮影(PET)検査。薬を作るためにタンパク質を分析する時も加速器を使う。機械の中を透視できるようにもなった。関連工場もたくさんある。
宇宙はどうやって始まったのか、宇宙は何でできているのか、宇宙にどうして我々いるのか。その答えはまだどこにも載っていない。この謎解きに、ぜひ皆さんも一緒に、いろいろな形で挑戦してもらいたい。
聴講した生徒は「電子と陽電子を衝突させ、宇宙ができた始まりを再現しようという発想が、おもしろいと思った。そんな最先端の研究拠点が東北にできたら誇らしく思う」とお礼の言葉を述べていた。
一般的に科学と言うと、便利な生活と結びつく科学技術と思われがちだが、それ以前に人間の意欲を育てることがまずは大切だ。私たち人間は、所詮人間でしかなく小さな存在であるが、しかし何千人という人間が一つのことに集中して意欲的に取組むと、こんなことまでできるのか!という人間の凄さを、最近になってようやく実感している。
能力はあまり関係なく、人間の挑戦意欲の方がすごい。皆さんも、ぜひいろいろなことにチャレンジして欲しい。