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【ご意見04】「新しい芽の育て方~自由度と創造性~」MEMSの世界的権威・江刺正喜さん(東北大学名誉教授、株式会社メムスコアCTO)からのご意見①

 皆さん、こんにちは。知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて、仙台で科学教育活動を行っているNPO法人 natural science の大草芳江です。これから世の中を知的好奇心あふれる心豊かな社会に変えていく力を貯めていくために、皆さまからのご意見を集め、またそれに対する私の考えも述べる形で、YouTubeで発信しています。

IoTやAI等を支える最先端技術「MEMS」研究の世界的権威

 昨今、IoTやAI、自動運転といった技術の実用化が進み、私たちの生活にも身近になってきていますが、それらの技術を支えるキーデバイスのひとつが、「MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)」と呼ばれる技術でつくられるセンサです。

 そのMEMS研究の世界的権威である東北大学名誉教授の江刺正喜先生から、今回ご意見をいただきました。江刺先生はMEMS研究のみならず、企業支援も熱心にすすめており、紫綬褒章(2006年)など数々の賞を受賞されています。

国際イノベーションコンテスト(iCAN)を主催

 これまで、この動画でも、natural science の学生や受講生たちが「国際イノベーションコンテスト(International Contest of InnovAtioN:iCAN)」という国際コンテストを目指していることをご紹介してきました。この国内予選は江刺先生が代表を務めていらっしゃるMEMSパークコンソーシアムによって開催されています。

 iCANの世界大会は、これまで中国、ドイツ、フランス、アメリカ、スペイン等で開催されました。2014年に初めて日本で世界大会が開催された時には、私たちnatural science 主催の『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』と共催しました。世界10カ国からの代表23チームが開発したアプリケーションをサイエンス・デイの来場者の皆様にも体験いただきました。

 江刺先生には私どもの科学教育活動にも多大なるご理解とご支援をいただいておりまして、今回改めて教育に対する想いを伺いました。江刺先生からは長いお手紙をいただきましたので、これから2回に分けてお届けします。今回は、「子どもたちが楽しく勉強して、自分でなにかを生み出していこうという、新しい芽の育て方」についてのご意見です。それでは、江刺先生からのご意見をご紹介します。

江刺正喜さんからのご意見①
「新しい芽の育て方~自由度と創造性~」

 「私はいつも自分の人生を『オタクあがりのものづくり人生』と言っています。私は、中学・高校時代から真空管や出たばかりのトランジスタを使った装置をつくったりするオタクで、それがベースになって楽しんでやってきました。音楽家やスポーツ選手などが小さい時から好きでやってそのままプロになっているのと同じようなものです。オタクっぽい人を育てて楽しく勉強させたいという想いがあります。

 私の若い時は自作でも役に立つものをつくることができました。売っているものよりもよいものが自作でできたりしたので、楽しい思いをしました。どの分野でも成熟してくると、売られているものは立派になって、自作では敵わなくなってしまうこともあります。一方で今は、進んだ技術を上手に活かして新しく開拓することもできます。

 例えば、『国際イノベーションコンテスト(International Contest of InnovAtioN:iCAN)』というものづくりの国際コンテストが10年ほど前から行われています。高校生や大学生などがセンサなどの部品を使い、スマートフォンのアプリを開発して、役に立つ小形のシステムをつくるものです。仙台で国内予選を毎年開催し、優秀なチームを国際大会に送り出し、そこでも優勝したりしています。進んだ技術を有効に利用する方法を研究と絡めてお手伝いしている一例です。

 やっぱり楽しんで、『こういうふうになりたい』ことを見つけられる過程が教育にあるとよいと思います。教育はどうしても型にはめがちですが、それとは別に自分が生み出せるものにつながるとよいと思います。「学校での先生の教え方が問題だ」とよく指摘されていますが、楽しさを感じさせられないでいるんじゃないかと思うのです。先生もどうしても型にはまりがちで、はみ出た人をどう育てるかが問題です。

 それは学校だけでなく、社会に出てからの教育の場でも同じだと思います。日本を代表する大企業でも、昔はかなり自由度を持たせていて、それによって新しいことが生まれていました。けれどもだんだん組織化されていくと、自由度がなくなって新しいことが生まれないことは、よくあることです。

 つまり、自由度を如何につくっていくかが重要だと思います。企業も例えば「仕事の何割を自由にやりなさい」と色々工夫しているとは思うのですが、いつも考えていなければ、どうしても言われたとおりにやるだけになってしまいますよね。日本の産業競争力が低下しているのも、言われたとおりにやる人が指導して、新しい芽を出すことが、かなり下手になっているのではないでしょうか。

 日本でも昔とは違って、多様化している部分や、以前より自由度がある部分もあると思うので、やりようはあると思います。若い人に如何に楽しく勉強して将来のことを考えてもらうかという方針も、時代時代で変わるので、これからどうしたらいいか、一番よいやり方を常に考えていなければいけません。学習指導要領も文部科学省が決め過ぎだとは思いますが、その中で、学校と塾だけではない異なる観点から、子どもたちに夢を持たせる部分を別の活動で補ってやるのがいいのではないでしょうか。

 ところで、大草さんたちのnatural science では『科学・技術講座』で子どもたちにものづくりを教えていますが、子どもたちが楽しく勉強して自分でなにかを生み出していこうという新しい芽をどのように育てているのでしょうか。」

知的好奇心こそ新たな道を切り拓く原動力

 江刺先生、貴重なご意見どうもありがとうございます。江刺先生はいつもご自身のことを「オタクあがりの人生」とユニークな表現をされていますが、私はオタクの方々を尊敬しています。

 なぜならば、知的好奇心を一時期失って自分の心が死んでしまう思いをした私は、知的好奇心こそが人間の生きる力だと痛感しており、オタクの方々はその観点で見ますと、眩しいほどの知的好奇心と創造性に溢れた存在だからです。そして、これまで江刺先生をはじめとする、一流の研究者の皆様に何百人も取材して確信したことというのが、その溢れ出る強力な知的好奇心こそが、新たな道を切り拓く、まさに原動力であるということです。

 ですから、私どもは「知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて」をスローガンに掲げ、人間の内発的モチベーションに根ざしながら、基礎力と創造力を育成することを目指し、科学教育活動を行っているという次第です。

時代の変化にあった評価の仕組みが必要

 そのような意味で、江刺先生からご質問いただいた「子どもたちが楽しく勉強して自分でなにかを生み出していこうという新しい芽を育てる」ことを目指してずっと活動しているわけですが、今回改めてご質問いただいて、そのためには、時代時代の変化に合った評価の仕組みが必要であることに気づきました。

 なぜならば、自分がおもしろいと思うことを形にする喜びも、科学・技術や社会的な観点からそれを評価できる人が適切に評価してくれなければ、子ども自身もそれが価値だと思えずに手放してしまい、せっかくの芽も育たないからです。

 従来、その評価の中心を担ってきたのは、身近な親や学校の先生たちでした。しかし、現代社会においては情報革命によって技術発展のスピードが加速度を増しているために、固定概念が前提となった個人由来の評価だけでは、適切に評価することが難しくなっています。そのため、現代社会においては、多様な形で評価する仕組みが必要と考えます。

 その観点からも、多様な専門家の方が子どもたちのアイディアを形にした成果を評価してくださる「国際イノベーションコンテスト、iCAN」は非常に重要な場であると思います。

アイディアを具現化する力を鍛える

 私どもnatural scienceの『科学・技術講座』では、「自らのアイディアを形にしよう」をスローガンに、江刺先生ご指摘の自由度を持たせつつ、そのアイディアを具現化できるだけの科学的な基礎力を徹底的に鍛えています。

 さらに形にしたアイディアの発表の場として、講師や受講生たちにはiCAN出場を強く推奨しています。また近年は、大学生や高専生がメインだったiCANの出場年齢の下限が中学生まで引き下げられ、『科学・技術講座』の受講生の小中高生にとっても、iCANは頑張れば手の届く、挑戦しがいのある大会になりました。今では多くの受講生が「将来はiCANに出場したい」と目標にして頑張っており、小学生の頃からアイディアを議論しています。

 実際に昨年度は、当時小学6年生だった受講生がつくったアプリが評価されました。また今年度は、小学5年生から受講している高校2年生の受講生がつくったアプリが評価され、彼の将来の夢が大きく前進したと聞いています。

アイディアを具現化する力の評価は、時代の変化にもマッチする

 これからも、科学・技術の加速度的な進歩によって、時代は予想できないほど大きく変化していくことでしょう。その時代時代の進展に合ったものづくりをする上でも、この「自らのアイディアを形にしよう」というアプローチはちょうどよいということに、江刺先生から今回ご意見いただいて改めて気づくことができました。なぜならば、その生まれてきたアイディアとは、決して社会と切り離されたものではなく、その社会の実情を踏まえて生まれてくるはずだからです。

 しかも、それは自分自身の知的好奇心を満たすもので、適切な成長を促すのにも、ちょうどよいものです。さらに、そのアイディアが社会にマッチすれば評価され、その評価されたことがまた、子どもたちの成長につながっていきます。つまり、アイディアを具現化する力が評価されることは、どんな時代の変化があったとしても、その時代時代に合ったものになるはずです。そのような観点からもiCANは非常に重要な場であると、江刺先生から今回改めてご意見をいただいて考えた次第です。

 私どもも、仙台の子どもたちが将来皆iCANを目指して自らのアイディアを形にしていく、そんなクリエイティブな街となるよう、一生懸命盛り上げるために精進して参ります。これからも江刺先生、引き続きお力添えの程何卒よろしくお願いいたします。

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