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【ご意見03】「理解していない人が教える弊害~疑問の芽を摘むべからず~」川添良幸さん(東北大学未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー、名誉教授ドットコム株式会社代表取締役)からのご意見③

 皆さん、こんにちは。知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて、仙台で科学教育活動を行っているNPO法人 natural science の大草芳江です。これから世の中を知的好奇心あふれる心豊かな社会に変えていく力を貯めていくために、皆さまからのご意見を集め、またそれに対する私の考えも述べる形で、YouTubeで発信しています。

 今回いただいたご意見は、東北大学名誉教授で、現在、「名誉教授ドットコム」というコンサルティング会社の代表取締役を務めていらっしゃる、川添良幸先生からのご意見です。川添先生はスーパーコンピューターを活用したシミュレーション計算による計算材料学の草分けで、東北大学で第1位の出版論文数を誇る研究者の方です。

 川添先生からは長いお手紙を頂戴しましたので何回かに分けてお届けしておりまして、前回は「効率化の弊害」についてのご意見をご紹介しました。今回は3つ目のご意見で、「知らない人が教える弊害」についてです。それでは川添先生からのご意見をご紹介します。

川添良幸さんからのご意見③
「理解していない人が教える弊害~疑問の芽を摘むべからず~」

 「子どもの頃、よい先生に出会いました。教科書の間違いや、常識を問い直す姿勢の大切さを教えてくれた先生です。学習指導要領通りに教えることを『先生』と言うとするならば、皆を一様に育てることはできても、おもしろくはないですし、子どもだって本当はおかしいと気づいていますよね。けれども子どもが『わからない、なぜ?』と言っているのに、先生が『そういうものだから』と答えてしまう。そうやって、理科とは原理や法則を覚えるものだと信じ込まされて、長年悩まず、あっさりと既存の概念を受け入れる態度が育てられてしまっていることが、根本的な問題ではないでしょうか。『磁石を半分に切っても、またSとNになるのはなぜ?』、そんな疑問を持った子どもが将来科学者になったかもしれないのに。本当は科学に向いていた人たちがいなくなってしまったら大変勿体ないことです。

 それを逃さないための方策は、ほぼほぼわかっています。私の娘は『高校で物理を選択して損をした』と話していました。なぜかというと、物理の先生の本当の専門は生物で、『物理を知らない』というのです。物理を選択する生徒が少ないからといって、専門の先生が足りない現状のまま学校の教育をしていてもよいのでしょうか。先生がおもしろいと思って教えるから学生もそうなる可能性が高いのに。それはいくらなんでも、おかしいでしょう。小学校の理科だって、誰にでも教えられる簡単なものと思われがちですが、本質的に何が起こっているかを知らない人が、教科書どおりに悩みもせずに教えてしまうと、それを『変だな』と思う子どもの疑問に、『そういうものだから』と答えてしまいます。本質的なものや教科書の間違いを教えることは、それをやったことがない先生では無理です。

 私の娘は障碍を持っていますが、米国で教育を受けた時、『普通の子どもよりも難しいのだから」と、特殊教育をする先生はマスター(修士号)まで持っていました。きちんと特殊なことができる先生を育てる必要があるのに、日本では先生を一律に育てていると感じます。効率化するために、専門でない人に科目を教えさせることは、やめさせるべきです。それをやらない限り、教育現場は変わらないでしょう。すべて学校教育が悪いとは言いませんが、日本はそういう教育をやってきて、それが今の日本の科学・技術と言われるものの弱みです。

 ところで、大草さんたちのnatural science の『科学・技術講座』では、センサを使ったものづくりを中心に教えていると聞いていますが、例えば、センサの原理やその適用範囲等、科学的な因果関係をきちんと正しく理解した先生が、きちんと指導しているのでしょうか。」

自分の疑問なんて価値がないと思い込んでいた

 川添先生、貴重なご意見をありがとうございます。私も小さな頃、先生の説明ではわからないことがあり、それで先生に質問すると「そういうものだから」と言われて、でもやっぱりわからなくて、それでわからないのは自分のせいだと思って、頭が悪いと思われるのも嫌だし、自分が疑問に思うことは価値がないものだと思うようになりました。

 そして大学に入り、教科書の説明ではどうしてもわからないことがあったので、先生に聞いてみると「それはまだわかっていないから、教科書に書いていないだけだ」と答えてもらって、とてもびっくりしました。それくらい教科書は絶対ではなく、あくまで今わかっている条件の中で何がわかっているかを書いてあるだけだったことに、大学に入ってから初めて気づいたわけです。その前提をもっと早く教えてくれたらよかったのに、と心底思いました。

テスト以外の実世界で知識を活用する方法見当つかず

 そういったこともあって、natural science では、自分がおもしろいと思うアイディアを形にできる基礎力と創造力を育成する「科学・技術講座」を2008年から開発し、小学生から大学生向けに提供しています。

 実はこの講座、当時のnatural science の大学生たちが、いざ自分たちで1からロボットをつくってみようとしたところ、テストでは高得点を取れたのに、全くつくれなかったショックから開発した講座なんです。

 その原因は、川添先生もご指摘の通り、理科とは原理や法則を覚えるものだと思い込み、それまでテスト以外の実世界で知識を活用した経験が全くなかったために、いざ自分の意志でその知識を活用し自分がおもしろいと思うことを形にしようとしても、そのやり方が全く見当つかなかったことが根本的な原因でした。

自分の意志と乖離している知識をつなぐ講座をつくる

 しかし、それでは何のために勉強したのかがわからないから、この自分の意志と乖離している知識をナチュラルにつなぐ講座を自分たちの手でつくろうと、講座の開発を2008年から始めました。

 それが「科学・技術講座」で、「自分がおもしろいと思うものをつくりたい」という内発的モチベーションを原動力に、ものづくりを通じて知識を活用していく過程で、ひとつひとつの部品や法則の意味を、実感を伴いながら理解し、科学的思考力を養う講座です。

科学的思考力と創造力、同時に養うことが容易な時代に

 また、ちょうど世間でも7~8年くらい前から、3Dプリンタや各種センサなどを個人レベルでも手軽に利用できて、アイディアを形にできる環境が整い、いわゆるIoTという言葉も一般的になってきた頃でしたので、科学的思考力と創造力を同時に養うことが容易な時代になっていたことも、本講座の方針にマッチしました。

博士3名で科学的な因果関係や妥当性等を毎週議論

 現在、本講座は全12章、約300コマのカリキュラムとして体系化しており、川添先生ご質問の、科学的な因果関係や妥当性等については、理学部物理と工学部の博士号取得者3名が毎週のように議論しています。

講師自身もアイディアを形にしてコンテスト出場

 もちろん、子どもたちと直接接する講師たち自身も、自分がおもしろいと思うアイディアを形にできる基礎力と創造力がなければ、当然のことながら、子どもたちに教えることはできません。

 そのため講師たちには、単に用意された講座を教えるだけでなく、講師たち自身もそれぞれのアイディアを形にしてコンテスト等に出場することを課しています。コンテスト出場を通じて、科学的思考力からプレゼン力まで、講師たちの基礎力を徹底的に鍛えています。

 その成果は、国際的なものづくりコンテストの世界大会に日本代表チームとして毎年のように出場したり、世界1位入賞や文部科学大臣賞受賞などの実績として現れています。

 そして、それら挑戦の過程で成長した経験を、講座開発やテキスト執筆、受講生への指導等に反映しています。

受講生もコンテスト挑戦を目指す好循環

 受講生たちも同じように基礎力を徹底的に鍛え、自分のアイディアを形にしてコンテストにチャレンジするコースを設けており、コンテスト入賞実績のある講師たちがその指導にあたっています。受講生それぞれのアイディアが形となり、それを見ていたまわりの受講生たちも、「自分もアイディアを形にして挑戦してみたい」という好循環が生まれています。

学術界で成果を出した経験豊富な方々との議論が重要

 現在のところ、「自分がおもしろいと思うことを形にする」創造力の部分は、ものづくりの工学的アプローチがメインですが、本講座で学ぶ基礎力は「なぜだろう?」「自分でそれを確かめたい」という実験系構築にも応用できるものですので、将来的には理学的アプローチも展開していきたいと考えています。

 その時に大切なことは、川添先生のように学術の世界で結果を出した経験豊富な方との、「これは本当に科学的に正しいのか、正しくないのか。自分が本当に納得できるのか、できないのか」という議論と考えております。

 ですから川添先生、これからも引き続きご議論をお願いできますと幸いです。どうもありがとうございました。

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