「科学と社会」意見交換・交流会とは、「科学と社会」をテーマに、毎回、各界から多彩なゲスト(科学者、実業家、行政関係者、作家など)を迎え、宮城の日本酒(注:未成年はソフトドリンク)を交えながら、ざっくばらんに議論するニュータイプのサイエンスカフェです。
「科学と社会」についての捉え方は、立場によって異なります。議題は、ゲストが「科学と社会」をどのように捉えているのかからスタートし、その切り口から、ゲストと参加者同士で活発な議論を行います。明示的な落とし所をつくることが主目的ではなく、様々な立場の方にご参加いただくことによって、「科学と社会」の現状を浮き彫りにすることを主な目的としています。
第7回目となる今回のゲストは、物理オリンピック日本委員会(北原和夫理事長)です。物理オリンピック日本委員会では、全国物理コンテスト「物理チャレンジ」の開催および国際物理オリンピックへの日本代表団派遣事業を通して、物理学に対する関心の喚起や、科学技術人材の育成を推進しています。
第1部の講演会では、ゲストの物理オリンピック日本委員会理事長の北原和夫先生(東京理科大学教授)から、国際物理オリンピックの概要と日本参加までの経緯について紹介があった後、物理オリンピックの視点から見える、日本の科学教育の現状や課題などについて講演がありました(詳しくは、講演要旨をご覧ください)。また、日本の国内物理コンテストへの宮城県からの参加者は、過去9年間合計でわずか50人弱と他県に比べて少なく、ぜひ挑戦して欲しいとの話もありました。続いて、第2部のゲストを交えた意見交換・交流会では、「科学と社会」をテーマに、世代を超えた、参加者同士の活発な議論が行われました。
若者たちが未知の問題に挑戦し、国内外の若者のネットワークをつくること、物理に限らず幅広い分野に興味をもつことが大切だ。国際物理オリンピックでは、古典的な物理はほとんど出題されず、地球物理や宇宙物理、工学の基礎となる物理など、幅広い分野のテーマが出題される。また、ここで求められる能力は、見たこともない問題に出会った時、その解決に向けた戦略性と方法を確かなものとして持っているかや、最後まで考えの道筋をまとめて書き記す能力などであり、単にマニュアルに従って実験するだけでは歯が立たない。それが世界の物理教育のスタンダードである。
世界の高校物理基礎の教科書を調べてみると、欧米の教科書は、まず宇宙から始まり、我々はどんな世界で生きているかを物理として考えるところから学んでいく。ところが日本の教科書は、ベクトルとは何ぞやから始まり、習い始めは一体どこに連れて行かれるかわからない状況から始まる。その辺りから日本の教育を変えなければいけない。特に理系、物理は積み重ねである。到達ゴールがあれば、それに向かって、下から積み重ねる。これを「Systematic learning」と言う。もう一つは、文脈的学習「Contextual learning」と言い、どんな状況で意味を持つのか、その状況を含めて学ぶ。今、欧米はこの二つのバランスの中で、常に自分たちの身の周りのことを考えながら、理科を学んでいる。もっと生活感がある面白い指導要領が、日本でもできると良い。
さらに大事なことは、どうやって攻めるかという戦略や作法である。自分が考えていることを相手に伝えるためには、論理的な説明の順序立てや、図・グラフにすることなどが大事である。物理オリンピックで「record the experimental values」というのは、決してデータ数値を並べることではなく、その信頼性をチェックした上で、誤差や測定条件を含めての「記録」であり、他者に引き継いで行く「公共財」である。それを次の人が引き継ぐことで、より良い科学の成果につながっていく。このプロセスこそ、まさに、科学である。しかし、そのようなデータに対する心構えの教育が手薄であることに、日本の科学研究の課題があるように思う。次世代、社会に対する責任感の問題である。
名称 | 「科学と社会」意見交換・交流会(第7回) |
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主催 | 特定非営利活動法人 natural science |
共催 | 宮城県 |
ゲスト | 特定非営利活動法人 物理オリンピック日本委員会 |
「科学と社会」意見・交換交流会(ゲスト:物理オリンピック日本委員会) 【日時】2014年3月22日(土)午後4時30分~(午後7時閉場) |