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サイエンス・デイ オブ ザ イヤー2026(文部科学大臣賞)受賞企画概要

1.出展プログラム名

錆びてかすれた古代のハンコを科学の力で解読しよう!

2.出展団体名

東北大学 金属材料研究所 新知創造学際ハブ推進室

3.構成員名簿(氏名・学年)

氏名 役職・学年
藤田 全基 教授(室長)
佐藤 敬浩 特任教授(副室長)
藤澤 敦 特任教授
深堀 協子 特任助教(広報担当)
具志堅 美樹 事務補佐員
今野 智恵子 事務補佐員

4.受賞コメント(約400字)

 この度は素晴らしい賞をいただきまして、ありがとうございます。新知創造学際ハブは人文科学と材料科学の新しい研究コミュニティを作る活動をしています。今回のサイエンス・デイ出展では、最新の文理の共同研究成果からヒントを得て「古いハンコの解読」をテーマとしました。錆や朱泥などでかすれてしまい、多くの古印を読み解いてきた考古学者でも読めなかった印面が、X線CT撮影によって初めて読めるようになったという研究です。中国 山東大学の劉海宇教授は、まだ論文執筆中で未公開だったのにもかかわらず「少年少女の皆さんにX線CT画像を紹介し、PC上で触ってもらうこと等はよいのではないかと思います」と出展企画を快諾し、数多くの古印の中から展示にふさわしい候補を挙げてくださいました。また古印を所蔵する岩手県立博物館の工藤健学芸員には、3D計測のために仙台まで古印を持参くださるなど全面的にご協力いただきました。この賞は、サイエンス・デイ当日もゲスト参加してくださったお二人とともにいただいたものと考えています。新知創造学際ハブはこれからも文理の共同研究を進め、新たに生み出された知を分かりやすく発信していきます。

5.プログラム紹介文

 金属でできた中国のハンコをたくさん集めた人がいて、考古学者が一つひとつ印面を読みましたが、あまりに古くて表面が錆び、読めないものがありました。「X線CTで撮影したらどうだろう?」 果たして、X線CTで古いハンコは読めるようになったのでしょうか? 漢字が少し難しいけど、三次元データを動かして解読に挑戦してみましょう。本物は岩手県立博物館にあるので、ハンコを三次元計測して、3Dプリントで再現したハンコも用意しました。実際にハンコを押してみましょう。
※X線像は、物体の密度の違いが明るさの違いとなって現れます。X線CTでは、物体を回転しながら何枚も撮影し、再構成することで、物体の密度の違いを立体的に再現することができます。

6.趣旨・ねらい(どのようなことをねらいとして、出展内容を考えましたか?)

 学校で習う学科は国語・算数・理科・社会と分かれていますが、学問に境目はなく、普段の生活も研究者がやっている研究も繋がっているということを実感してもらえたらと考えました。新知創造学際ハブは、人文科学と材料科学の協力によって新しい知を見出そうと活動を進めています。研究成果の中から分かりやすいものを選び、身近な体験から科学について考えることに繋がるような企画を考えました。また、科学者が実際に見て考えているモノや映像をできるだけそのまま参加者に触ってもらう、見てもらう、その上で考えてもらうことを意識しました。読めないハンコが読めるようになったという文理の共同研究を追体験しながら、文字が読み取れる像を見つけることで研究者のワクワク感を感じてもらえるよう企画しました。さまざまな形のハンコを押す楽しい作業が、印面が読めないという考古学者の悩みを実感することに繋がり、印面を読むためにどうする?というところで材料科学のツールが登場します。使ったどちらのソフトウェアもプロ仕様ですが、必ず誰かがついて操作を教え、自分で手を動かしてもらうようにしました。また、プリントは穴埋め形式にして、クイズに答えるような感覚で問題解決の方法を考えてもらい、方針が決まったら操作を教えるようにしました。当日体験が難しいものは動画に記録し、ウェブや会場での投影を通じて伝えることとしました。

7.具体的な出展内容(6.の目的を実現するために、どのような出展内容としましたか?)

 岩手県立博物館にあるバラエティーに富んだ多数の中国古印(太田コレクション)の価値を見出し、全てを調査した考古学者がどうしても読めなかった古印を、新知創造学際ハブの研究課題として東北大学総合学術博物館のX線CTで撮影し解読に成功したという研究ストーリーを追体験してもらう内容です。本物での押印はできないので再現ハンコを使います。また、実物の色や質感を感じてもらうため、古印を再現する過程で得られた3D計測データを見るコーナーも設けました。

事前準備(再現ハンコ製作):岩手県立博物館から許可を得て、宮城県産業技術総合センターに実物の古印4点を持ち込み、非接触画像光学式3次元デジタイザ(FLARE)を用いた研究員技術的支援を受けて3次元計測を行いました。同時にカラーの3次元データも取得できました。続いて同じく宮城県産業技術総合センターにて、3Dプリントの一種である光造形の研究員技術的支援を受けました。光造形はレーザーを照射することで硬化する樹脂を使います。3Dプリントは底面にあたる部分の細かい描写が苦手なので、印面が正しく再現できるよう画像データを上下2つに分け、印面を上にしてプリントできるようデータを分割してもらいました。1点は原寸大のみ、3点は原寸大および2倍の大きさの計7点の古印の上下パーツができました。プラスチック用瞬間接着剤で上下を接着し再現ハンコの完成です。

体験1:博物館所蔵の印章を観察しよう
当日は古印の研究者(山東大学 劉海宇教授)と岩手県立博物館の学芸員(工藤 健氏)がゲスト参加し、参加者に詳しく解説しました。太田コレクションから3つが組になった珍しい入れ子の古印など、年代やかたちが異なる数点が展示されました。
また、再現ハンコのうち2倍の大きさでも作成したもの3点の実物大ハンコを、古代に使われていたように紐や帯をつけて展示しました。古代のハンコは朱肉を使わなかったこともあり腰などに身につけていたと考えられています。

体験2:再現ハンコを押してみよう
事前に作成した再現ハンコ4点を朱肉やインクをつけてプリントに押してもらいました。押印マットだけではうまく押せないので、紙の下にキムワイプを挟みました。
プリントの裏面にはそれぞれの古印の説明が書いてあります。ハンコ1,2はくっきり押せて文字が読めますが、ハンコ3,4は読めない古印です。

体験3: 3D計測データを動かしてみよう
事前に取得した古印4点のカラーの3D計測データをPC上で動かしてもらうコーナーです。再現ハンコは透明ですが、PC上では金属印に朱がついた色を見ることができます。また自由に拡大したり、回転したり、形状データの中に入りこむような体験もできます。

体験4: X線CTデータを動かして解読に挑戦しよう
いよいよ研究で実際に得られたX線CTデータを動かしてもらいます。X線CT測定をしたのは読めない古印だけなので、プリント上、2つの古印で設問2つとし、操作が簡単なものを難易度★、複雑なものを難易度★★★としました。読めなかった文字(空欄)に入る最も近い文字を選択肢から選んでもらいます。

難易度★のハンコ3は、X線CT像の透過表示を表面表示にすると文字がくっきり見えます。操作としては表面表示のアイコンをクリックして、印面が見えるように回転させるだけです。X線CTではX線の通りにくさ(物質の密度)が大きく変わるところを物体の表面と認識して像を描かせることができますが、今回はソフトウェアが金属の部分と錆や朱肉の部分をうまく見分けてくれました。鏡文字ではありますが元の印面の形が見えるので、最も近い文字を選択肢から選んで答えてもらいます。

難易度★★★のハンコ4は、表面表示にしてもよく見えず、もう少し複雑な操作が必要です。CTはコンピュータ断層撮影という意味で、仮想的に切断することができます。参加者から「印面付近を薄切りにしたらいいのではないか」というアイデアが出るのを待って、切断のアイコンをクリックしてもらいます。慣れない人がその場で切断位置や向きを調整するのは難しいので、事前にちょうどよい切断面に設定してあります。薄切りにして透過像を表示するとぼんやりとですが文字が浮かび上がります。これは日本でもよく使う漢字なのでこの時点で読める人もいますが、これも文字の特徴から近いものを選択肢から選んでもらいます。

動画コーナー: 今回用いた3つの科学分析技術(X線CT・3D計測・3D造形)の活用プロセスは会場での体験が難しいので、それぞれ実験中に録画し、ショート動画にしてサイエンスデイページに載せたほか、会場でも流しました。
再生リスト サイエンスデイ2026「錆びてかすれた古代のハンコを科学の力で解読しよう!」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLRWuxyRHfOlGtcOme-PmRWpTo4PT9hgxY

8.出展内容を説明する写真や図(1点以上)



3D計測と3D造形で岩手県立博物館所蔵の太田コレクションを再現したハンコ7点


実物大の再現ハンコに糸を通し実際に使われていたようすを再現したところ

体験1: 博物館所蔵の印章を観察しよう

古印の研究者や博物館の学芸員から説明を受ける参加者たち

体験2: 再現ハンコを押してみよう

2倍の大きさに再現したハンコをプリントに押す参加者

体験3: 3Dデータを動かしてみよう

3Dデータの操作を体験するコーナー

体験4: X線CTデータを動かして解読に挑戦しよう

X線CTの3D像を動かしながらスタッフの説明を受ける参加者たち


サイエンス・デイ当日のスタッフ集合写真
隣のブースの日本ナショナルインスツルメンツ株式会社の方に撮っていただきました。ありがとうございます(左から佐藤副室長・深堀・劉教授・工藤学芸員・藤田室長・今野・具志堅)

9.科学を社会に伝えるために、特に工夫していること・意識していることは何ですか?

 大学や研究所で研究されていることや使われている言葉は、専門分野以外の人には馴染みがなく分かりにくいことが多くあります。文理の共同研究者同士でも同じことが言えますが、新知創造学際ハブの場合、知りたいモノが間にあることで、その溝を突破しているようです。研究内容を一般の方に伝えるときも、それが普段の生活の一コマに出てきそうな物事の延長線にあるようにストーリーを考え、できるだけよく使う言葉で説明することを心がけています。また、専門家は自分の専門分野について喜んで教えてくれるので、疑問が湧いたら遠慮なく質問するようにしています。何気ない会話からサイエンスコミュニケーションに役立つヒントが見つかることもあります。

10.その他、アピールポイントなど、ご自由にご記入ください(自由記入欄)

 今回の出展テーマとなった研究は、2026 年度 東北大学 金属材料研究所 国際共同利用・共同研究拠点(GIMRT)課題「高精細X線CTスキャナーによる古印文字の解読研究」として進められている東北大学金属材料研究所・岩手大学平泉文化研究センター・岩手県立博物館・山東大学文化遺産研究院の共同研究です。非破壊分析がとてもうまくいった例と言えるでしょう。今回の出展には、山東大学の古印研究者 劉海宇教授、岩手県立博物館の工藤健学芸員のほか、X線CT撮影と画像解析を行った鹿納春尚氏(撮影当時:東北大学 総合学術博物館)や3D計測・造形を行った宮城県産業技術総合センターの荒木武氏、篠塚慶介氏のご協力をいただきました。今回題材とした古印コレクションは、既に検印(朱肉をつけて押印すること)が禁じられていて所蔵している博物館でも押印ができないので、今回再現したハンコが今後岩手県立博物館で活用される可能性もあります。3D計測データは博物館で活用したいとのことで提供済みです。

 劉教授と工藤学芸員はサイエンス・デイに参加後、ともに金属材料研究所を訪れ、新たな非破壊分析に挑戦しました。印面の解読とはまた違う新しい知見が得られ、X線CT撮影の結果と併せて古印の構造や製法に対する理解が深まったようです。
人文科学と材料科学が共に歩むことで、これからも新しい知が生み出されていくことでしょう。それを効果的に社会に伝え、好循環が生まれるよう努めていきたいと思います。

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